息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
追跡/その4


達子の息子は高校の教師の傍ら、”風土心理学”という、風変わりな分野の研究に取り組んでいるという。

克也という名の晴子の息子は今年27歳で、律子より3才年上だ。
埼玉の大学に通うため、この町を出た後、そのまま都内で就職したが、数か月で会社を辞めて生まれ故郷に戻ってきたらしい。
今は、大学で取得した教職資格で、新米教師として歴史を教えているとのことだ。

達子からの話では、克也は”あの日”の神社での出来事を、かなり”特殊”な視点で”解釈”しているという。

秋川は、達子に連絡を取ってもらって、夕方に勤務先であるその高校で克也と会うことになった。

既に昼過ぎとなっていた為、町の食堂で昼食をとり、署の新田に連絡を取ることにした。

”なにか新しい情報が入ってる気がする”

秋川はなぜかそんな予感がした。

...


「秋川さん、実は滝沢の死亡推定時刻直前に、あのアパートの前で”奇妙”な証言が取れました」

秋川は内心、強烈な興奮を覚えた。

”なぜ、律子があんな行動をとったのかがわかる証言かも知れない”、咄嗟にそんな予感がしたのだ。

新田は続けた。

「午後11時15分ごろ、あのアパートの前を通りかかった会社員の目撃証言なんですが…。それが、あのう…、例の白い煙のようなものがくねくねと舞い上がって、滝沢の部屋に入っていったらしいんですよ」

「えっ?それって、バイクの置いてあった場所からって訳か?」

「ええ、そうです。そこから外階段を一段ずつ登って行くかのように上がってって、ゆっくりと玄関ドアの下の隙間から新田の部屋へ、吸い込まれるように入ったそうです」

「臭いはどうだったんだ?悪臭はしたって言ってたか?」

「はい。さほど強くはなかったらしいですけど、とにかく生臭い悪臭ははっきり感じたそうです」

”またあの匂いの主だ!”狐の尻尾”状の白い煙…。あの白煙の正体は一体、何なんだ…”

秋川はもはや、律子の失踪は確信に近い思いでコレに関連していると考えていた。





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