息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
閉じ子の伝説/その1


その日の午後3時半、S町の県立高校の裏庭で、秋川は克也と会うことができた。

克也は見るからに好青年で、刑事である秋川を特段意識することなく自然体で接していた。他ならぬ律子を目的として、自分に接触してきてることを承知しながら…。

...


「克也さん、お母さんには申し上げたが、律子さんが特に何か事件を起こしたとか、そういうことではありませんので…」

「ただ、彼女の周辺で”何か”は起こっている…。そうなんですよね?」

「まあ、そんなところになります。彼女に会って、お聞きしなくてはならないことがあり、私はここまでやってきました。律子さんがあなたを訪ねたということでしたので、できれば昨日どんなお話しをされたのかお伺いできないかと思いまして…。今日はお仕事場まで押しかけてしまい、恐縮です…」

克也は軽く頷きながら、秋川の申し出を了解した様子だった。

...


「まず、急に律子さんがあなたに会おうとした理由なんですが…」

「まあ、僕の実家に行って、こっちの学校に勤務してることも聞いたんで、せっかくだから久しぶりだしって、そんな感じでしたね」

「…まあ、近くまで来たんだし、彼女からしたらいとこのあなたに会って来ようと思っても不思議はない。手に入れたばかりのバイクも見せたかったでしょうしね、はは…」

秋葉は笑いながらも、鋭い視線で克也の表情を注視していた。すると克也は、その秋葉の意を察したかのように答えた。

「刑事さんが知りたいことを先に言いましょう。…律っちゃん、バイクの売主さんに会いに行くと話してました」

”やはりそうか!…この克也にそのことを告げたとすると…”

...


秋葉は自分の目的が何であるかを、克也は何となく感じ取っているように思えたので、手っ取り早く切り込むことにした。

「他にはどんなことを話されましたかね?まあ、世間話は当然でしょうが、”それ以外”では」

「…彼女、小1の時に体験した神社での出来事について僕に”尋ねて”きました。おふくろから奇妙な研究してるって聞いたんで、その立場での僕の意見を聞きたかったそうです」

「確か風土心理学でしたかな…」

「ええ…、その視点からあの出来事を自分なりに分析していたんで、その解釈を律っちゃんには伝えました」

秋葉は鳥肌が立つ思いだった。
”これでいくつかの点がつながる…”、それは確信に近かった。

...


「…だいたい1時間ちょっとかかりました。彼女に説明し終わるまでには。結果、彼女は”ナゾ”が解けたようでした。長年、自分の中にしまいこんでいたあの体験と、そのほかのことも…。僕には何度もお礼してくれて、これから大河原郡静町に住んでるバイクの入札者に会って来るつもりだと告げてくれたんです」

「…」

「ここでお聞きします。そのバイクの入札者って、今回刑事さんが”追ってる”人物なんですか?」

秋葉は一瞬迷ったが、答えることにした。

「今動いている事案に関係しているかどうかは、まだ何ともです。しかし、彼女がその入札者に会うだろうという推測はしていました。そして、このS町に寄ったあと、自分も静町に向かうつもりでした」

「そうですか…。やはり…」

「克也さん!ぜひ、私にあなたの研究している風土心理学に基づいて律子さんに説明した内容を教えてください」

秋葉は一挙に”そこ”へ持って行った。




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