息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
閉じ子の伝説/その3


「人間、努力してもタカが知れてる。自分が抱えた運命の前には遺憾ともしがたい数値が存在する。あなたの結論はそういうことなんですな」

「概ねは…。ただ、それを前提として、では、向き合う側面をどこにするか…。要は、まず何を認めるかの”何か”になります」

「ふう…、また難しくなってきたかな。時間の関係もあるし、もう少し手っ取り早く願いたい気持ちはある」

この辺で秋川はじれてきた。しかし、克也は動じるそぶりは見せず、こういう説明は慣れているせいなのか、いたってマイペースだった。

...


「じゃあ手っ取り早く言わせてもらいます。人は生まれる前から”それ”を承知で生を受けている。無意識という意識が下した判断です。少なからず、それに拘束される。だから、遺憾ともし難い運命の決定割合を人それぞれではあるにせよ、自分の中で抱えながら生きているということです」

「うーん、私からしたら全然手っ取り早くない…(苦笑)」

「…世の中、成功した人間、あるいは犯罪とかで極端に人生を転落させた人物を検証するのが一般的です。そこから何を学ぶかといった切り口ですよね。運命力学は無意識で背負った”さだめ”をおぼろげながらでも、自分で知ることを目的としています。多くの場合、それは自分の限界に突き当たる。さらにその”さだめ”に拘束させている要因の正体を掴むことも…」

ここで克也は一呼吸ついた。そしてその後、やや苦笑を漏らしながら続けた。

「…まあ、普通の人はそんな後ろ向きな解析なんか、何の意味があるんだってなりますよ。僕としても、そう思いますよ、そりゃ」

ここで案の定、克也の口から”さだめ”という言葉が出て秋川はピンときた。”どうやら本題に入りそうだな”、と…。

...


「…ただし、人間は一定限でもさだめの方向性は持って、この世に生まれているとほぼ確信しているんです、僕は…。それは、たぶんこの地で生まれ育ったことが大きい…。そこで、今個人的に研究している風土心理学ってことになります」

「続けてください…」

「…人が漠然とながらも”さだめ”を内包して、この世に生を受けたとした場合、親というか血筋、生まれる時代、そして生まれ育つ場所の3つが、その人の”さだめ”の前提土台になるでしょう。僕は、さだめを拘束する3要因の強さは人によってそれぞれ違うと考えています。その上で、僕が日本という国はもともと、人間の深層心理とか魂のようなものと、その土地に培われてきたその地方の風土とのむすびつきがとても深いと思うんです」

秋川はここで、やっと”風土”というフレーズを耳にできたことで妙に安堵した自分を自覚していた。

...


「…特にこの地方は、それが他よりかなり強い土地柄というか風土だと感じるんです。そして、この地方で生まれてくる人間の無意識の中の意識が持つさだめの方向性に、親や生まれた時代背景よりも、この土地の風土の方が拘束力を発揮しているんじゃいだろうかと…。僕の推論では、まずこの点がベースになります。しかもそれって、人によっては呪縛のレベルまで及んでいると…」

「ここで、一度整理させてください。運命力学上だと、人間は乗り越えられない一定限の”さだめ”を背負って生まれる。それも、無意識という意識の中では半ば自己が承知したうえで…。その”さだめ”の方向性を、ここの土地に生まれた人たちは、この地の風土に拘束されている傾向がある…。あなたはそれをこの地で生まれ、敏感に感じ取った。だから、ここへ戻って風土心理学という手法で探究を始めた。その観点から考察した20年近く年前に起きた神社でのあの出来事について、昨日、律子さんに話された。そう言うことですな…」

「はい」

”よし!いよいよ本題に入るだろう…”

秋川は一段と視線を鋭くして、相変わらず穏やかな克也の顔を見つめた。




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