息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
閉じ子の伝説/その4


「刑事さん…、今言ったこの地方のそういった”傾向”は、事象物としての土地というのではなく、むしろ人間がその地に代々、根付かせてきた風土から及ばされるものです。大昔からここの土地に生まれ住んてきた人々、言わば僕らの祖先がどういう行いをしてこの地で生きて、後世に伝承させた行ったのか…。言ってみれば、伝統や文化も含めた土着の度合いが高かったことで、他の場所よりも”そういった”エネルギーが強いという見方なんです」

「そう言われると、私あたりでもすんなり受け入れられます」

二人は互いに微笑をこぼしながら顔を見合わせた。

「そこで、じゃあ、この地方はってことですが…。この辺りはいわゆるフォッサマグナの西縁近くに位置して、飛騨山脈の麓という立地です。昔から雪深くて他の人里とは隔離されていましたから、どうしても閉鎖性は強かったようなんです。長い間よそからの人間を受け入れず、狭い土地の中で子孫を育んでいったわけで、やはり血が濃くなります。そうなると、知能や体に異常を持つ子も多かったことが覗えます」

”まさに土着風土のコアな話になった来たな…”、そろそろ秋川にも克也の話す方向性はおぼろげながら見えてきていた。

...


「…ここの人々は、それを土地の神様の怒りを買ってるせいだと考え、信心へいびつに結びつける風土ができてしまったんです。その結果、健康で生まれなかった子は、地を鎮める捧げものにしたらしいんです。もっとも、その際は村で採れる毒草を煎じて、苦しまずに絶命させるやり方だったそうですが。でも…、もしかすると、内心では大人になってもちゃんと働けない厄介者を排除できるという思いもあって、それにかこつけて地の神様を利用したのかもしれない。いずれにせよ、そういった風習が定着してしまったのが、そもそもの始まりでした」

克也はこのようなくだりになっても、決して感情を表に出すことなく、あくまで淡々とした口調で語っていた。秋川も時折ふんふんと頷き、メモをとる手は休むことがなかった。

「…やがて江戸時代近くになると、今でいう天文学が進歩し、日の本の国がどういう地形で、自分たちがどのあたり住んでいるかは、この辺りを治める領主たちも知るようになりました。そのうち、彼らにはひとつの仮定が出来上がります。ここが折れ曲がったこの国の中心で、この地の神が、これ以上国が曲がって折れてしまうのを防いでくれているんだと勝手に思い込んでしまったんです」

「なるほど…。確かに地図で上でも、この辺りは日本列島のへそに見えるし、ここの力が緩めばぽきんと折れそうだ(苦笑)」

秋川のこの相槌には思わず、克也もくすっと笑みをこぼしていたが、すぐに元の表情に戻し、再び話を続けた。





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