息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
第5章/呼び寄せられて…
望まざる確信/その1
秋川が静町に入ったのは夜9時近かった。
”とにかく今日の宿を探さなくては…”
しかし、しばらく町中を走ると、それは時間の浪費であるとすぐに悟った。
なにしろJRの最寄駅もない寂れた町なので、旅館を探すのは難儀だと判断し、一旦隣町まで戻ることにしたのだ。
結局、秋川は10時前には隣町で何とか宿泊先を見つけることができた。
夜遅くに急な宿泊だったが、宿に着くと女主は急場しのぎで夕食を用意してくれた。
とは言え、川魚の佃煮やら揚げ物やらと、とても間に合わせのものとは思えないほどの食膳だった。
”うん、これはうまい…”
秋川は、なんともありがたいもてなしに感謝しながら、とにかく空腹を満たした。
...
食事を済ませてからひと風呂漬かった後、秋川は一服しながら手帳を広げて今日の出来事を振り返ってみた。
”あの後”、新田からは20分ほどで折り返しの連絡が入ったのだが…
...
「…秋川さん、向井祐二は自殺していました。3日前に首つりです。死亡推定時刻は…」
”やはり、向井は死んでいたのか…”
秋川は向井の自殺に大きな驚きは感じなかったが、死んだ日時と場所には大きな戸惑いを禁じ得なかった。
「…じゃあ、管轄の調べが正確であれば、向井は信用金庫で例の白い煙が出て小峰さんが倒れた少し後、息を引きとったことになるな」
「ええ。それと、津藤律子が向井とやり取りしたメールによれば、首を括った現場はバイクの引渡し場所と同一のようです」
「…」
新田とはここで一度電話を切ったのだが、1時間もしないで再度携帯が鳴った。
今度は出先から新田が携帯でかけてきたのだが、その口調は明らかに興奮気味だった。
いや、動揺していると言った方が正確だった。
なにしろ電話口を通して、秋川にはその様子がはっきりと伝わってきたのだ。
「…何?おい、それ本当か?」
「はい。先ほど津藤律子の母親の元にある律子の携帯が鳴って出たところ、向井と名乗る年配の女性だったそうです」
律子が部屋に置いて行った携帯電話は、母親の了解を得て秋川らが一度預かり、着信履歴等を控えた後、母親に戻していた。
そして、かかってきた電話にはとりあえず出てもらい、警察に報告してもらうように依頼していたのだ。
母親はオークションの取引相手を秋川らから聞かされていたので、名字が同じということで、すぐに署に連絡し、出先の新田へ一報が届いたということだった。
...
「よし、その女性には俺から電話しよう」
「…あのう、秋川さん。律子の隣に住んでいた滝沢太一の周辺を調べましたが、今のところ、職場でも交友関係でも特に今回の事件につながる線は全く出ていません。それと、彼の部屋の合鍵を持っている人物もいないようですし。…しかし、現場の状況からは、何者かが外部侵入した可能性は考えにくい…」
秋川は黙って聞いていたが、新田の言いたいことは分かっていた。
「…そうなると、あの首跡からは自分で首をくくるなり、自殺という線が考えられますが、あの部屋でどうやってというところに突き当たります。実際にロープや縄など、首をしめた道具も見当たらない。であれば、どうなんでしょうかね、本当の真実ってところは…」
「今のところは、何とも言えんだろうと、まあそうなるが、お前にはもう話しておこう。俺の今の予想では、さっきちらっと口にした通りだ。このヤマは”別部屋”の範疇になると思う」
「…」
新田のこの絶句はショックというよりも、あきらめに近いものだというのは、ほかならぬ”別部屋”事案の経験者である秋川がよく理解していた。
秋川が静町に入ったのは夜9時近かった。
”とにかく今日の宿を探さなくては…”
しかし、しばらく町中を走ると、それは時間の浪費であるとすぐに悟った。
なにしろJRの最寄駅もない寂れた町なので、旅館を探すのは難儀だと判断し、一旦隣町まで戻ることにしたのだ。
結局、秋川は10時前には隣町で何とか宿泊先を見つけることができた。
夜遅くに急な宿泊だったが、宿に着くと女主は急場しのぎで夕食を用意してくれた。
とは言え、川魚の佃煮やら揚げ物やらと、とても間に合わせのものとは思えないほどの食膳だった。
”うん、これはうまい…”
秋川は、なんともありがたいもてなしに感謝しながら、とにかく空腹を満たした。
...
食事を済ませてからひと風呂漬かった後、秋川は一服しながら手帳を広げて今日の出来事を振り返ってみた。
”あの後”、新田からは20分ほどで折り返しの連絡が入ったのだが…
...
「…秋川さん、向井祐二は自殺していました。3日前に首つりです。死亡推定時刻は…」
”やはり、向井は死んでいたのか…”
秋川は向井の自殺に大きな驚きは感じなかったが、死んだ日時と場所には大きな戸惑いを禁じ得なかった。
「…じゃあ、管轄の調べが正確であれば、向井は信用金庫で例の白い煙が出て小峰さんが倒れた少し後、息を引きとったことになるな」
「ええ。それと、津藤律子が向井とやり取りしたメールによれば、首を括った現場はバイクの引渡し場所と同一のようです」
「…」
新田とはここで一度電話を切ったのだが、1時間もしないで再度携帯が鳴った。
今度は出先から新田が携帯でかけてきたのだが、その口調は明らかに興奮気味だった。
いや、動揺していると言った方が正確だった。
なにしろ電話口を通して、秋川にはその様子がはっきりと伝わってきたのだ。
「…何?おい、それ本当か?」
「はい。先ほど津藤律子の母親の元にある律子の携帯が鳴って出たところ、向井と名乗る年配の女性だったそうです」
律子が部屋に置いて行った携帯電話は、母親の了解を得て秋川らが一度預かり、着信履歴等を控えた後、母親に戻していた。
そして、かかってきた電話にはとりあえず出てもらい、警察に報告してもらうように依頼していたのだ。
母親はオークションの取引相手を秋川らから聞かされていたので、名字が同じということで、すぐに署に連絡し、出先の新田へ一報が届いたということだった。
...
「よし、その女性には俺から電話しよう」
「…あのう、秋川さん。律子の隣に住んでいた滝沢太一の周辺を調べましたが、今のところ、職場でも交友関係でも特に今回の事件につながる線は全く出ていません。それと、彼の部屋の合鍵を持っている人物もいないようですし。…しかし、現場の状況からは、何者かが外部侵入した可能性は考えにくい…」
秋川は黙って聞いていたが、新田の言いたいことは分かっていた。
「…そうなると、あの首跡からは自分で首をくくるなり、自殺という線が考えられますが、あの部屋でどうやってというところに突き当たります。実際にロープや縄など、首をしめた道具も見当たらない。であれば、どうなんでしょうかね、本当の真実ってところは…」
「今のところは、何とも言えんだろうと、まあそうなるが、お前にはもう話しておこう。俺の今の予想では、さっきちらっと口にした通りだ。このヤマは”別部屋”の範疇になると思う」
「…」
新田のこの絶句はショックというよりも、あきらめに近いものだというのは、ほかならぬ”別部屋”事案の経験者である秋川がよく理解していた。