息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
いわくの地/その1
克也と別れて静町に向かう途中、律子はずっと迷っていた。
それは…、尾隠し地蔵と向井祐二の自宅…、どちらを先に訪れるか…。
律子がバイクで静町に入ったのは、夕方の4時ちょった前だった。
”まずは町役場へ寄ってみよう。とにかく向井さんの家までの道を把握してこなくちゃ…”
まだバイクナビも備えておらず、携帯は部屋へ残してきたので、控えていた向井の自宅住所を地図なりで確認する必要があったのだ。
やはり、律子としては今、交番で尋ねるというのはどうしても抵抗があったし、役場に行けば、今日泊まる宿泊先も役場の観光課あたりで教えてもらえるというアタマもあった。
通りすがりの人に町役場までの道を聞くと、さほどは離れておらず、4時過ぎには静町役場に到着した。
...
用件は思いのほかスムーズに片づいた。
さすがに片田舎の町役場だけに、何しろ来庁者が少ない。
もっとも、窓口で延々と”世間話”に講じている人がやけに目立って、ある意味の活気は感じられたが…。
”やっぱり千葉あたりとは違ってのどかだ。きっと、こんな田舎なら金融機関も私の職場と違って、のんびり仕事ができるんだろうなあ…”
律子はこんな呑気な思いにふけって、ちょっと苦笑いをこぼしながら役場を出ようとした直前、ふと足を止めた。
それはまさしく、咄嗟に思い立ったのだった。
”そうだ…、どうせだから尾隠し地蔵のこととかを聞いて行こうかな…”
...
律子は、1階玄関口近くに陣取っている総合案内に歩を進め、女性職員に用件を告げて担当課を尋ねた。
すると、係の若い女性職員は愛想の良い顔でこう答えてくれた。
「そういったご用件でしたら、教育委員会に”詳しい”職員がいますので、今、在庁しているか内線で確認してみますね」
これは律子にとって、文字通り渡りに船と言えた。
...
「よかった…。その職員は今おります。4階の教育委員会へどうぞ。多田というものが待っていますので…」
「ありがとうございます。でも、もうすぐ5時だし、今からだとご迷惑じゃないですかね?」
「ふふ…、その職員、そういう類のことを人に話すのが好きなので、大丈夫ですよ。いろいろ詳しく教えてくれますから(笑)」
案内の女性は終始ニコニコしながら、丁寧に対応してくれた。
律子は小走りして4階まで階段を駆け上がった。
...
4階の教育委員会の窓口に着くと、小柄な年配の男性職員が律子に声をかけてきた。
「ご用件の方はあなたですかね?」
どうやら多田という職員らしい。
「はい。5時近くになって、すいません…」
「いえ。じゃあ、そこへどうぞ…」
多田は通路の長椅子に律子を先導し、二人は並んで腰を下ろした。
さっそく、手にした地図帳を広げながら多田は切り出した。
「ええと、尾隠し地蔵でしたっけ?知りたいのは…」
「ええ。一度訪ねたことはあるんですが、聞いたところによると、昔からいろいろ因縁めいた言い伝えがあるとか…。詳しいことをご存知でしたら、教えていただけますでしょうか?」
「…ここの地蔵がある場所は、知る人ぞ知る、いわくの地ですよ」
多田からはいきなりだった…。
克也と別れて静町に向かう途中、律子はずっと迷っていた。
それは…、尾隠し地蔵と向井祐二の自宅…、どちらを先に訪れるか…。
律子がバイクで静町に入ったのは、夕方の4時ちょった前だった。
”まずは町役場へ寄ってみよう。とにかく向井さんの家までの道を把握してこなくちゃ…”
まだバイクナビも備えておらず、携帯は部屋へ残してきたので、控えていた向井の自宅住所を地図なりで確認する必要があったのだ。
やはり、律子としては今、交番で尋ねるというのはどうしても抵抗があったし、役場に行けば、今日泊まる宿泊先も役場の観光課あたりで教えてもらえるというアタマもあった。
通りすがりの人に町役場までの道を聞くと、さほどは離れておらず、4時過ぎには静町役場に到着した。
...
用件は思いのほかスムーズに片づいた。
さすがに片田舎の町役場だけに、何しろ来庁者が少ない。
もっとも、窓口で延々と”世間話”に講じている人がやけに目立って、ある意味の活気は感じられたが…。
”やっぱり千葉あたりとは違ってのどかだ。きっと、こんな田舎なら金融機関も私の職場と違って、のんびり仕事ができるんだろうなあ…”
律子はこんな呑気な思いにふけって、ちょっと苦笑いをこぼしながら役場を出ようとした直前、ふと足を止めた。
それはまさしく、咄嗟に思い立ったのだった。
”そうだ…、どうせだから尾隠し地蔵のこととかを聞いて行こうかな…”
...
律子は、1階玄関口近くに陣取っている総合案内に歩を進め、女性職員に用件を告げて担当課を尋ねた。
すると、係の若い女性職員は愛想の良い顔でこう答えてくれた。
「そういったご用件でしたら、教育委員会に”詳しい”職員がいますので、今、在庁しているか内線で確認してみますね」
これは律子にとって、文字通り渡りに船と言えた。
...
「よかった…。その職員は今おります。4階の教育委員会へどうぞ。多田というものが待っていますので…」
「ありがとうございます。でも、もうすぐ5時だし、今からだとご迷惑じゃないですかね?」
「ふふ…、その職員、そういう類のことを人に話すのが好きなので、大丈夫ですよ。いろいろ詳しく教えてくれますから(笑)」
案内の女性は終始ニコニコしながら、丁寧に対応してくれた。
律子は小走りして4階まで階段を駆け上がった。
...
4階の教育委員会の窓口に着くと、小柄な年配の男性職員が律子に声をかけてきた。
「ご用件の方はあなたですかね?」
どうやら多田という職員らしい。
「はい。5時近くになって、すいません…」
「いえ。じゃあ、そこへどうぞ…」
多田は通路の長椅子に律子を先導し、二人は並んで腰を下ろした。
さっそく、手にした地図帳を広げながら多田は切り出した。
「ええと、尾隠し地蔵でしたっけ?知りたいのは…」
「ええ。一度訪ねたことはあるんですが、聞いたところによると、昔からいろいろ因縁めいた言い伝えがあるとか…。詳しいことをご存知でしたら、教えていただけますでしょうか?」
「…ここの地蔵がある場所は、知る人ぞ知る、いわくの地ですよ」
多田からはいきなりだった…。