息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
死者からの手紙/その6
「…祐ちゃん、便せん2枚で律子さんとのことを簡潔に書いてましたが、私にはそれだけで、あの子が何を思っていたか、願っていたか、すべてわかったんです。それは急を要することだってことも…。それで、なにしろ律子さんと連絡取って即会おうと思って、携帯に電話したんですが、出られたのはお母さんでした…」
”なるほど…、そういうことだったのか。何しろ、この女性と会って向井祐二からの手紙を確認するのが先決だ。となると、向井さんにはこっちの動きに対する理解を得ないと…”
ここで秋川は、刑事として律子のあとを追ってこの静町までやって来た経緯を、支障のない範囲で伝えることにした。
...
「向井さん、何故刑事である私がこの静町に訪れたか、ある程度は察しておられると思いますが、律子さんの周辺で事件が複数起こりました。最初は彼女が甥御さんから日曜日にバイクを受け取った翌日でした。…いや、まだ彼女が事件に関与しているとは全く言えない段階です。ですが、あのう…、これは変な表現だが、科学捜査に基づく警察から見ると、何とも不可解な点が多々ありまして…」
秋川はかなりきわどいところまで触れた。
だが、彼女と電話で話しての感触では、ここまで告げるべきだと判断できたのだ。
「…そして、律子さんはおとといの夜から姿を消し、仕事も無断欠勤しています。そして、彼女はどうやらこの町に来ているらしい。それで私もここにやってきたという訳でして…」
これを受けた向井月枝の反応は早かった。
「…刑事さん!私も彼女が祐ちゃんのところへ来る予感がしていたんで、昨日、警察の帰りに向井の家に行って、近所の人に私の連絡先を書いたメモを渡したんです。何しろ尾隠しの集落は静かで、外から人が入ってくればすぐわかりますから。祐ちゃんのバイクに乗った、それらしき若い娘さんが訪れたらとお願いしておいたんです。それで、今日、律子さんから連絡をもらいましたよ」
「…」
秋川は絶句状した。
目に見えないところでの展開があまりに早く、さしものベテラン刑事も戸惑いを隠せなかった。
...
「…今日は祐ちゃんの密葬の準備で私が住んでいる群馬に戻っていたんで、明日の午前中、静町で会うことになったんです」
「本当ですか?ええと、向井さん、そこであなたは律子さんにどのような話をされるおつもりですか?」
「まずは手紙を見せようと思います。私の話を聞いたら律子さん、とてもショックを受けると思う。それと、場合によっては彼女の身に危険も…。科学捜査が原則の刑事さんには理解できないようなことも含めてなんですが…。今、電話で全部はとても…。どうでしょうか刑事さん、明日、一緒に立ち会っていただいては?」
「向井さん…、ありがとうございます。あなたのお気持ち、感謝に堪えません。その上で申し上げます。今の彼女は警察を忌避しています。まあ、状況的には致し方ない。携帯電話を置いてきたのも、居場所をとりあえず知られたくないからでしょうし。そこで、まずは向井さん…、彼女の前に私とお会いしてもらって、祐二さんの手紙を拝見できませんか?」
秋川はちょっと迷ったが、まずは死ぬ前に叔母に当てた手紙の中身がどうしても知りたかった。
それが律子の今回の行動を紐解くカギになると踏んだからだ。
「わかりました。朝一番でこっちを出ますので…」
この後、秋川は月枝との待ち合わせの段取りをとって、電話を切った。
”よし!うまくすれば明日でケリがつく。律子も祐二との件で向井月枝と会うとあっては、少なくとも自分からはよからぬ行動をとることはないだろう。だが、もはやこのヤマは超常現象を起こしていると言っていい。明日まで律子の身に何も起こらねばいいが‥”
そんな想いを抱きながら、秋川は今の件を伝えるため、新田の携帯へ連絡することにした。
「…祐ちゃん、便せん2枚で律子さんとのことを簡潔に書いてましたが、私にはそれだけで、あの子が何を思っていたか、願っていたか、すべてわかったんです。それは急を要することだってことも…。それで、なにしろ律子さんと連絡取って即会おうと思って、携帯に電話したんですが、出られたのはお母さんでした…」
”なるほど…、そういうことだったのか。何しろ、この女性と会って向井祐二からの手紙を確認するのが先決だ。となると、向井さんにはこっちの動きに対する理解を得ないと…”
ここで秋川は、刑事として律子のあとを追ってこの静町までやって来た経緯を、支障のない範囲で伝えることにした。
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「向井さん、何故刑事である私がこの静町に訪れたか、ある程度は察しておられると思いますが、律子さんの周辺で事件が複数起こりました。最初は彼女が甥御さんから日曜日にバイクを受け取った翌日でした。…いや、まだ彼女が事件に関与しているとは全く言えない段階です。ですが、あのう…、これは変な表現だが、科学捜査に基づく警察から見ると、何とも不可解な点が多々ありまして…」
秋川はかなりきわどいところまで触れた。
だが、彼女と電話で話しての感触では、ここまで告げるべきだと判断できたのだ。
「…そして、律子さんはおとといの夜から姿を消し、仕事も無断欠勤しています。そして、彼女はどうやらこの町に来ているらしい。それで私もここにやってきたという訳でして…」
これを受けた向井月枝の反応は早かった。
「…刑事さん!私も彼女が祐ちゃんのところへ来る予感がしていたんで、昨日、警察の帰りに向井の家に行って、近所の人に私の連絡先を書いたメモを渡したんです。何しろ尾隠しの集落は静かで、外から人が入ってくればすぐわかりますから。祐ちゃんのバイクに乗った、それらしき若い娘さんが訪れたらとお願いしておいたんです。それで、今日、律子さんから連絡をもらいましたよ」
「…」
秋川は絶句状した。
目に見えないところでの展開があまりに早く、さしものベテラン刑事も戸惑いを隠せなかった。
...
「…今日は祐ちゃんの密葬の準備で私が住んでいる群馬に戻っていたんで、明日の午前中、静町で会うことになったんです」
「本当ですか?ええと、向井さん、そこであなたは律子さんにどのような話をされるおつもりですか?」
「まずは手紙を見せようと思います。私の話を聞いたら律子さん、とてもショックを受けると思う。それと、場合によっては彼女の身に危険も…。科学捜査が原則の刑事さんには理解できないようなことも含めてなんですが…。今、電話で全部はとても…。どうでしょうか刑事さん、明日、一緒に立ち会っていただいては?」
「向井さん…、ありがとうございます。あなたのお気持ち、感謝に堪えません。その上で申し上げます。今の彼女は警察を忌避しています。まあ、状況的には致し方ない。携帯電話を置いてきたのも、居場所をとりあえず知られたくないからでしょうし。そこで、まずは向井さん…、彼女の前に私とお会いしてもらって、祐二さんの手紙を拝見できませんか?」
秋川はちょっと迷ったが、まずは死ぬ前に叔母に当てた手紙の中身がどうしても知りたかった。
それが律子の今回の行動を紐解くカギになると踏んだからだ。
「わかりました。朝一番でこっちを出ますので…」
この後、秋川は月枝との待ち合わせの段取りをとって、電話を切った。
”よし!うまくすれば明日でケリがつく。律子も祐二との件で向井月枝と会うとあっては、少なくとも自分からはよからぬ行動をとることはないだろう。だが、もはやこのヤマは超常現象を起こしていると言っていい。明日まで律子の身に何も起こらねばいいが‥”
そんな想いを抱きながら、秋川は今の件を伝えるため、新田の携帯へ連絡することにした。