息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
ただ、駆られるままに…/その2
律子は一旦静町を出て、約20キロ離れた隣接のN市に向かってバイクを走らせていた。
目的地は市の図書館、それに同じ庁舎内に併設されている民俗資料館だった。
バイクでの移動中、律子は昨日のA氏との会話を思い返していた。
...
「相互因誘作用ですか…」
「うん。まずは、その土地と土地…、それぞれの波動同士で然るべき作用を起こし得るってことを前提にしてね。磁気とかの相乗作用も含めて。まあ、磁石のS極とN極が撥ね退け合う運動定理の延長でって言えば、なんとなくでもイメージできるんじゃないかな?」
「そう言った作用が、フォッサマグナの地帯では誘引しやすいというんですね?」
「まあ、所詮は素人の仮説だよ。だけどね、いろいろ調べたんだ。この地に詳しい人や、様々な関連分野の専門の人にも会って話を聞いたりもしてね。その結果、少なくともこれだけの大断層を作り上げたんだから、地上に向かう地下のエネルギーだって、想像を絶するものがあると考えても不自然ではないだろうと、まずはそう捉えたんだ」
「そうか…。地球の地下ものすごく深いところでは、当然凄い地殻変動の運動エネルギーが働いていますもんね。ただ、私たち人間が生きている地表にまで及ぼすエネルギーなら、大断層の真上はちょっと違うぞって視点か…」
「ああ…。我々の目には見えないところでさ、ある物質が発した刺激と、たまたま起こった相互反応がかけ合わさって、例えばだけど、”相殺”に相当する現象とかね…。乱暴に言えば消えちゃう現象を誘導する作用が起こり得たとしたら…」
”相殺…!”
なぜかこの一言は律子の心に突き刺ささった。
...
「Aさんは、地球の地下深くから地表にも幾多のエネルギーが放出される傾向が、フォッサマグナの地域では特に強いと…。その仮定の基で、例えば相殺作用の枠内には人間だって組み込まれることもあり得るんじゃないかと…、そう考えている訳ですね?」
「そうだよ。もっとも、規則性はあっても、その作用確率は奇跡的に起こるくらいのごく僅かだと思うけど。ただ、その人間も遺伝子が放射する一種のエネルギーとか、その土地と人間の営みの土着度合いも絡んで、自然と人間、人間同士、更にその他の生物、それらの動植物の生存意志みたいな…、ああ、人間で言えば魂のようなエネルギーの掛け合い、全部ひっくるめて考えちゃう。その中で、あのトンネルの放つ波動と”反応”しちゃった人間がいたとしても、それはアリかなとね」
「…」
既にこの時点での律子の頭の中では、Aの仮説が、克也からの話と見事なまでに重なり合っていた。
律子は一旦静町を出て、約20キロ離れた隣接のN市に向かってバイクを走らせていた。
目的地は市の図書館、それに同じ庁舎内に併設されている民俗資料館だった。
バイクでの移動中、律子は昨日のA氏との会話を思い返していた。
...
「相互因誘作用ですか…」
「うん。まずは、その土地と土地…、それぞれの波動同士で然るべき作用を起こし得るってことを前提にしてね。磁気とかの相乗作用も含めて。まあ、磁石のS極とN極が撥ね退け合う運動定理の延長でって言えば、なんとなくでもイメージできるんじゃないかな?」
「そう言った作用が、フォッサマグナの地帯では誘引しやすいというんですね?」
「まあ、所詮は素人の仮説だよ。だけどね、いろいろ調べたんだ。この地に詳しい人や、様々な関連分野の専門の人にも会って話を聞いたりもしてね。その結果、少なくともこれだけの大断層を作り上げたんだから、地上に向かう地下のエネルギーだって、想像を絶するものがあると考えても不自然ではないだろうと、まずはそう捉えたんだ」
「そうか…。地球の地下ものすごく深いところでは、当然凄い地殻変動の運動エネルギーが働いていますもんね。ただ、私たち人間が生きている地表にまで及ぼすエネルギーなら、大断層の真上はちょっと違うぞって視点か…」
「ああ…。我々の目には見えないところでさ、ある物質が発した刺激と、たまたま起こった相互反応がかけ合わさって、例えばだけど、”相殺”に相当する現象とかね…。乱暴に言えば消えちゃう現象を誘導する作用が起こり得たとしたら…」
”相殺…!”
なぜかこの一言は律子の心に突き刺ささった。
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「Aさんは、地球の地下深くから地表にも幾多のエネルギーが放出される傾向が、フォッサマグナの地域では特に強いと…。その仮定の基で、例えば相殺作用の枠内には人間だって組み込まれることもあり得るんじゃないかと…、そう考えている訳ですね?」
「そうだよ。もっとも、規則性はあっても、その作用確率は奇跡的に起こるくらいのごく僅かだと思うけど。ただ、その人間も遺伝子が放射する一種のエネルギーとか、その土地と人間の営みの土着度合いも絡んで、自然と人間、人間同士、更にその他の生物、それらの動植物の生存意志みたいな…、ああ、人間で言えば魂のようなエネルギーの掛け合い、全部ひっくるめて考えちゃう。その中で、あのトンネルの放つ波動と”反応”しちゃった人間がいたとしても、それはアリかなとね」
「…」
既にこの時点での律子の頭の中では、Aの仮説が、克也からの話と見事なまでに重なり合っていた。