息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
ただ、駆られるままに…/その3
「…要はその土地に培われ土着した情念が深い場合、因誘を孕む確率は恐ろしく高いと思うんだ。”あそこ”の辺りは閉鎖性の強い集落ということで、何かと理由づけして狐の殺生を連綿と続けてきた。人間同士でも、長い間には業の深い繋がり合いが形成していったんじゃないかな。その土壌上で、互いに広義でのスィング効果を生んじゃう。それはどちらかと言うと、残酷な因習に辿り着いたり、集落に住む人々に不幸な事態を招くとか、負の側面の方が多いと思えるんだ…」
ここまでAから話を聞いたところで、律子は自分の”こと”を告げることにした。
それは迷うことなく、このタイミングで…。
...
律子はまず、自分がなぜ、あの尾隠しの地に関心を持ったのかに触れた。
きっかけは先週末、尾隠しの集落に住む向井祐二のバイクをネットオークションで落札したことだったと…。
尾隠し地蔵の前で引き渡しを受け、その際、地蔵と狐の言い伝えを彼から聞いて、その翌日から不可解な事件や出来事が起こった。
そして、幼少期に母の故郷である岐阜中部の神社で不思議な経験をした記憶が急に呼び起こされ、吸い寄せられるようにその神社へこのバイクで向かい、その足で再び尾隠しに来て向井祐二に会うつもりだということも告げた。
Aは律子の話に、ちょっとあっけにとられている様子だった。
そもそも、役場の職員である多田から連絡があった時には、ネットで”あそこ”を怪奇スポットと知った若い女性が軽い気持ちで訪ねてくる程度でしか考えていなかったのだから…。
ところが…、実際に会ってみると確かに若い女性ではあったが、尾隠しの住人と接していた上、おそらくそれにまつわるであろう奇妙な現象の中に、自らも身を置いていると言うのだ。
しかも彼女は幼少期の体験を、フォッサマグナ上の土地と人が深く連鎖反応を起こし得るというところまで、すでに視野に入っていた…。
”この女性は、興味本位の軽い気持ちでここに訪れる子たちとは全く違う!”
そう悟ったであろうAから、律子は更に”深いところ”を聞きつけることになる。
...
Aは律子に二点を告げた。
一つは尾隠しの集落が、その土地と共に歩み、その結果培ってきた土着風土がもたらし得た、何とも禍々しい因習だった。
それは現代まで根付き、延いては尾隠し地蔵が背にする杉の大木での自殺者が絶えないこととも関連しているといった指摘だった。
もう一つは律子が幼い頃、幻の少年と出会った不破神社のあるあの一帯が、フォッサマグナを挟んだ静町あたりと連鎖し易い強い波動が交差しているという説だった。
太古に地下マグマの活動で東西の山地が隆起した際の激しい運動エネルギーで、地底奥深くを貫き”向こう側”へ到達するいわば”回路”が創造されたのだと…。
「…これは書物類の受け売りだよ。時間があれば、自分の目で確かめるといい。N市の資料館と図書館に行けば片が付く。今、各資料が収まっている書籍名をメモするよ…」
「Aさん、ご親切にありがとうございます。明日にでもN市には出向きます。そして自分でもしっかり確認して、そして…」
「ああ、”結論”は自分で導きだすしかないしね。私もそうしたんだ。律子さん、頑張れ!」
Aにそう言われると、律子の胸は急に熱くなっていた。
「…要はその土地に培われ土着した情念が深い場合、因誘を孕む確率は恐ろしく高いと思うんだ。”あそこ”の辺りは閉鎖性の強い集落ということで、何かと理由づけして狐の殺生を連綿と続けてきた。人間同士でも、長い間には業の深い繋がり合いが形成していったんじゃないかな。その土壌上で、互いに広義でのスィング効果を生んじゃう。それはどちらかと言うと、残酷な因習に辿り着いたり、集落に住む人々に不幸な事態を招くとか、負の側面の方が多いと思えるんだ…」
ここまでAから話を聞いたところで、律子は自分の”こと”を告げることにした。
それは迷うことなく、このタイミングで…。
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律子はまず、自分がなぜ、あの尾隠しの地に関心を持ったのかに触れた。
きっかけは先週末、尾隠しの集落に住む向井祐二のバイクをネットオークションで落札したことだったと…。
尾隠し地蔵の前で引き渡しを受け、その際、地蔵と狐の言い伝えを彼から聞いて、その翌日から不可解な事件や出来事が起こった。
そして、幼少期に母の故郷である岐阜中部の神社で不思議な経験をした記憶が急に呼び起こされ、吸い寄せられるようにその神社へこのバイクで向かい、その足で再び尾隠しに来て向井祐二に会うつもりだということも告げた。
Aは律子の話に、ちょっとあっけにとられている様子だった。
そもそも、役場の職員である多田から連絡があった時には、ネットで”あそこ”を怪奇スポットと知った若い女性が軽い気持ちで訪ねてくる程度でしか考えていなかったのだから…。
ところが…、実際に会ってみると確かに若い女性ではあったが、尾隠しの住人と接していた上、おそらくそれにまつわるであろう奇妙な現象の中に、自らも身を置いていると言うのだ。
しかも彼女は幼少期の体験を、フォッサマグナ上の土地と人が深く連鎖反応を起こし得るというところまで、すでに視野に入っていた…。
”この女性は、興味本位の軽い気持ちでここに訪れる子たちとは全く違う!”
そう悟ったであろうAから、律子は更に”深いところ”を聞きつけることになる。
...
Aは律子に二点を告げた。
一つは尾隠しの集落が、その土地と共に歩み、その結果培ってきた土着風土がもたらし得た、何とも禍々しい因習だった。
それは現代まで根付き、延いては尾隠し地蔵が背にする杉の大木での自殺者が絶えないこととも関連しているといった指摘だった。
もう一つは律子が幼い頃、幻の少年と出会った不破神社のあるあの一帯が、フォッサマグナを挟んだ静町あたりと連鎖し易い強い波動が交差しているという説だった。
太古に地下マグマの活動で東西の山地が隆起した際の激しい運動エネルギーで、地底奥深くを貫き”向こう側”へ到達するいわば”回路”が創造されたのだと…。
「…これは書物類の受け売りだよ。時間があれば、自分の目で確かめるといい。N市の資料館と図書館に行けば片が付く。今、各資料が収まっている書籍名をメモするよ…」
「Aさん、ご親切にありがとうございます。明日にでもN市には出向きます。そして自分でもしっかり確認して、そして…」
「ああ、”結論”は自分で導きだすしかないしね。私もそうしたんだ。律子さん、頑張れ!」
Aにそう言われると、律子の胸は急に熱くなっていた。