息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
ただ、駆られるままに…/その4


Aは律子と別れ際、最後に独り言をつぶやくように伝えた。

「…その説によれば、私の住んでいるT町のこの辺りも隠山トンネルと連鎖しやすい相性だってことでね。自分はそれでここを選んだ…。ちなみに、Bの奥さんとC本人が係りを持ったフォッサマグナエリアの地も、トンネル周辺との相性は良かったよ。最も、死んだ二人や君と違って、私には反応する”下地”が備わっていないようだ。今のところは、まったく呼び寄せられる気配はない…」

律子には、そう語るAの表情がどこか寂しそうに感じられてしょうがなかった。

...


”…決まりだ!”

約4時間半、A氏のメモに書かれた書籍や記録集、資料類をひと通り読解し必要な事項を控えた律子は、力強く心中で叫んでいた。

既に時計の針は4時近くを指している。

”ふう…、もうこんな時間か…。あとは旅館へ戻って整理しよう…”

考えてみれば昼食もとらず、律子はずっとここでコトに集中していた。
ただ、何かに駆られるように…。
その何かはまだはっきりしていなかったが、少なくとも薄っぺらい好奇心なんかの次元ではないことは明らかだった。

...


律子は閲覧席の机に積み上げられた書籍類を元の場所に戻そうと、それらの一部を抱きかかえ、席から立ち上がった。

そして…、その直後のことだった…。

カウンター内の女性職員に、外から職員が小走りして駆け寄ると、何やら耳打ちをしている。

その様子からは、何かただ事ではないように感じ取れた。
更に、外が騒がしい…。

律子は一旦抱えた書籍をテーブルに置き、建物の外へ出た。
すると…

...


「ちょっと!やだー、何よ、あれー?」

「げほっ…、なんてひどい臭いなの!」

すでに”現場”には、4人ほど集まって騒ぎになっていた。

”これは…”

律子は思わず立ちすくんだ。

なんと、”律子の”バイクが止めてある駐輪場から白い煙が起っていたのだ。

”あの”鼻が曲がりそうな悪臭を漂わせながら。

それは、マフラーがゆっくりと舞い上がるように…。



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