息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
引渡し/その3



「…じゃあ、これ代金です」

私は、自分の勤め先である、信用金庫の”あひるちゃんマーク”付きの現金用封筒に納まった、ん十万円を出品者さんに差し出した。

「あ、エンジンかけて確認してください。それから少し走ってみて、おかしいところがないかチェックしてもらってからで…・。それと、これ…、名義変更の関係書類です。間違いないか、確かめてください」

へへ、紳士だわー。
では、お言葉に甘えて試運転してみっか!

...


はは…、試運転してみたー。
もちろん問題なし。

「もう、すっかり気にいっちゃいました!代金受取ってください。ハイ…」

私は右手で渡し、彼は両手で受け取った。
山中での、厳かな”引渡し”作業が終わりましたとさ…。
何気に、ジーンっときちゃいまして…(苦笑)。

私の右に立ってる美香も、頭をこまめに下げたり、しっかり立会人やってくれてます。
珍しくおとなしくしてさ(笑)。

...


ああ、どうもありがとうございます。領収証必要なら、今書けますけど…」
「いいです、個人ですし」
「そうですか・・・。あっつ、あの…、ぬるくなっちゃったけど、お茶持ってきますね」

向井さんはそう言って車の中から、ペットボトルのお茶を持ってきてくれて、私たち二人に手渡してくれた。
この辺、気遣いがさりげなくていいや。

長い間、欲しかったあのマシン。
いい条件で譲ってくれた向井さん。
良い取引過ぎて、ヤッホーと吠えてみたいくらいだった。




< 7 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop