息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
結集の地/その4


深い山を抜けて、バイクと律子は谷底に勢いよく突っ込んだ。
陽射しが見えたのは一瞬だった。
気が付くと、今度は暗闇で全く何も見えない…。
前方も両横もおそらく後ろも…。

だが、律子は走り続けることができた。
祐二の乗っていたバイクと共に…。
それは、レールの上をトロッコが何のためらいもなく急滑降するように…。

真っ暗な闇の中だが、下っているのは明らかだった。
それも地を突き抜けるように、真っ逆さまに落ちていくくらいに…。

それは長く続いた。
長く続いたそれが終わると、今度は上り坂(?)を駆け上がっていた。
それも真上へ、天に向かって龍が起ち上るかのようだった。

これもまた長く続いたが、今の真正面である真上には…、かすかな明かりが見えてきた。
その小さい光の輪は次第に大きくなり、猛スピードで駆け上がるバイクはそこに跨る律子ごと、まるで太陽そのもののような光の空間に呑み込まれていった。

...


律子はバイクに跨ったまま、目を閉じていた。
耳を澄ますと小鳥のさえずりが聴こえる…。
そして木々の枝葉が風に吹かれ、優しくそよぐ音も響いている。
そう言えば、今まで走ってきた山中では全く聞こえなかった…。

...


「…にじゅうさん、にじゅうし、にじゅうご」

それは幼い女の子の声だった。

律子はゆっくりと目を開けると、いきなり飛び込んできたのは、石の階段下に竹林を脇にして止まっている、まだ乗っていたはずのバイクだった。
律子はいつの間にやらバイクをおり、石の階段を上がっていた。

次に律子の視界には、数を数える5、6歳らしき女の子の後ろ姿がぼんやりと映っていた。
そして、あたりもゆっくり見回してみた。

”ここ、あの神社だ!”

”なら、あの女の子ってもしかしたら…”

律子は心の中でそう呟き、神社の賽銭箱の前で両目を手で覆って数を数えている女の子に向かって歩いて行った。

...


その小っちゃい背中まで5、6Mのところまで歩み寄ったところで、律子は一旦立ち止まった。
女の子はピンクのトレーナーに紺のジーパン姿だった。

律子は再び歩き出し、女の子のすぐ後ろまで来たところで右手が女の子の肩に届いていた。
その手の感触に気付いた女の子は、数を数えるのを中断して後ろを振り向いた。

その後、自分とその女の子が賽銭箱の前で何やら会話をしている姿を、律子は10Mほど高い真上から見下ろしていた…。



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