息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
結集の地/その5
ここで律子とバイクの”夢の中”は終わった。
”あの女の子…”
その夢はいつものものより、やけに鮮明に覚えていた。
しかし、神社で話をした女の子の顔はどうしても思い出せなかったのだ…。
...
「…じゃあ、昨夜は例の煙とか臭いはなかったんですね?」
「はい…。ちょうど前日異臭がした夜中1時くらいにトイレへ行った従業員の一人が、炊事場脇の廊下で窓を開けてみたらしいんですが、白い煙は見えなかったそうですよ。他の従業員も昨日は別に何も気付かなかったって言ってました。あの強烈な臭いがすれば、誰かは目を覚ますと思いますし」
律子は図書館で煙が起ったこともあり、気になっていたので朝食を運んでくれた昨日と同じ賄いさんには一応確認してみたのだが、昨夜は特に異常がなかったようで、とりあえずひと安心していた。
「…ああ、それと、昨日はお客さんのバイク、前の日と違う場所に止めました?トイレで起きたその人が窓開けた時、前日あったバイクがなかったみたいだって言ってたもんで…」
「いえ、ほとんど同じ場所に止めました。暗いからよく見えなかったんじゃないですか」
「まあ、暗いですからね、はっきりは見えなかっただけですよね、ハハ…」
”もし、その人の言うことが間違ってなくても、あの時間、バイクは走ってた…し”
律子はバイクがなかったという証言も、そんな風に軽く流して、意識して気に留めないようにした。
”どっちみち、もうすぐ、大方ははっきりするのよ。今まで起きた不思議な出来事の要因らしきものが…”
この時点に至り、一種の開き直りのようなものが、彼女の心を妙に落ち着かせていた。
...
午前9時半、律子は旅館を後にした。
向井月枝とは午前11時に向井祐二の家でという約束だったが、すでにバイクは尾隠しに向かっていた。
律子は、昨日夢に出てきた尾隠しの集落を超えた先の山道を確かめるつもりだった。
”確か役場の多田さんは集落の先は数キロ先の山に閉ざされ、車ではその先に抜けられないと言っていたわ。でも、とにかくバイクで行けるとこまで行ってみよう…”
この時の彼女は夢で見た場所が現実のものかどうかの探訪ではあったが、メルヘンチックな動機に駆られていうようなものではなかった。
どこか、切迫感に近い、大切なものを探しに行く気構えが伴っていたのだ。
...
バイクは今は亡き元の所有者の住んでいた家を通過し、地図上では細長い集落を縦断するように、上りのくねくね道を速度を抑えて前進した。
400メートルほど細い林道を上がって行くと、道の両側からは民家が見当たらなくなった。
”集落はここら辺りまでね、きっと…”
更に100メートル近く進んだところで、”道”の形態が途絶えた。
”バイクでもここまでだ。この先は走れない”
律子はヘルメットを取り、エンジンを止め、バイクに跨ったまま目を閉じ、昨日の夢の中と照らし合わせてみた。
すると、あるイメージが脳裏に浮かんだ。
”うん、間違いない。フェイドアウトだ!”
夢の中で辿った道と現実にある道…、その境界がどこなのか、律子には自分なりの結論に行き着いていた。
ここで律子とバイクの”夢の中”は終わった。
”あの女の子…”
その夢はいつものものより、やけに鮮明に覚えていた。
しかし、神社で話をした女の子の顔はどうしても思い出せなかったのだ…。
...
「…じゃあ、昨夜は例の煙とか臭いはなかったんですね?」
「はい…。ちょうど前日異臭がした夜中1時くらいにトイレへ行った従業員の一人が、炊事場脇の廊下で窓を開けてみたらしいんですが、白い煙は見えなかったそうですよ。他の従業員も昨日は別に何も気付かなかったって言ってました。あの強烈な臭いがすれば、誰かは目を覚ますと思いますし」
律子は図書館で煙が起ったこともあり、気になっていたので朝食を運んでくれた昨日と同じ賄いさんには一応確認してみたのだが、昨夜は特に異常がなかったようで、とりあえずひと安心していた。
「…ああ、それと、昨日はお客さんのバイク、前の日と違う場所に止めました?トイレで起きたその人が窓開けた時、前日あったバイクがなかったみたいだって言ってたもんで…」
「いえ、ほとんど同じ場所に止めました。暗いからよく見えなかったんじゃないですか」
「まあ、暗いですからね、はっきりは見えなかっただけですよね、ハハ…」
”もし、その人の言うことが間違ってなくても、あの時間、バイクは走ってた…し”
律子はバイクがなかったという証言も、そんな風に軽く流して、意識して気に留めないようにした。
”どっちみち、もうすぐ、大方ははっきりするのよ。今まで起きた不思議な出来事の要因らしきものが…”
この時点に至り、一種の開き直りのようなものが、彼女の心を妙に落ち着かせていた。
...
午前9時半、律子は旅館を後にした。
向井月枝とは午前11時に向井祐二の家でという約束だったが、すでにバイクは尾隠しに向かっていた。
律子は、昨日夢に出てきた尾隠しの集落を超えた先の山道を確かめるつもりだった。
”確か役場の多田さんは集落の先は数キロ先の山に閉ざされ、車ではその先に抜けられないと言っていたわ。でも、とにかくバイクで行けるとこまで行ってみよう…”
この時の彼女は夢で見た場所が現実のものかどうかの探訪ではあったが、メルヘンチックな動機に駆られていうようなものではなかった。
どこか、切迫感に近い、大切なものを探しに行く気構えが伴っていたのだ。
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バイクは今は亡き元の所有者の住んでいた家を通過し、地図上では細長い集落を縦断するように、上りのくねくね道を速度を抑えて前進した。
400メートルほど細い林道を上がって行くと、道の両側からは民家が見当たらなくなった。
”集落はここら辺りまでね、きっと…”
更に100メートル近く進んだところで、”道”の形態が途絶えた。
”バイクでもここまでだ。この先は走れない”
律子はヘルメットを取り、エンジンを止め、バイクに跨ったまま目を閉じ、昨日の夢の中と照らし合わせてみた。
すると、あるイメージが脳裏に浮かんだ。
”うん、間違いない。フェイドアウトだ!”
夢の中で辿った道と現実にある道…、その境界がどこなのか、律子には自分なりの結論に行き着いていた。