息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
死者の葛藤/その1
午前9時5分前…、公園の駐車場に群馬ナンバーの黄色い軽乗用車が入ってきた。
”あれか!”
その、どこか駆け込むように走ってきた軽が向井月枝の車だと判断すると、秋川はすぐに運転席を降り立った。
そして、駐車した軽の前まで行くと中年の女性が車から出てきた。
「刑事さんですね!」
「はい。千葉県警○○東署の秋川です。向井月枝さんでらっしゃいますね?」
「ええ、お電話ではご親切にどうも…。祐二の叔母で、向井月枝です」
「向井さん!今日は朝早くから遠路ご足労いただきまして、本当にありがとうございます」
秋川は月枝の正面に立って、まずは深くお辞儀をした。
「こちらこそ、どうかお力添えを、ひとつよろしくお願いいたします」
身長150センチあるかないかで、やや小太りな体型の月枝の方は、秋川よりもさらに深く頭を垂れ、10秒近くお辞儀をしていた。
「…じゃあ、今日は風も強くないので、あそこのベンチでお話ししましょうか?」
「ええ、では…」
公園の入り口脇の駐車場から約100M程度中に入った、芝生の上に佇む木製のベンチまで、二人は急ぎ足で歩いた。
そして、横に並んで腰を下ろすと、さっそく月枝はバッグから何かを取り出す動作をしている。
”いよいよだ…。津藤律子と俺がこじ開けた扉の向こうには、い合ったい何が待っているんだ…”
秋川は既に鳥肌が立っていた。
...
「向井さん、今回の甥御さんの件、お気の毒なことでお悔やみを申し上げます。葬儀で立て込んでいるでしょうに、お時間いただいて感謝しています」
秋川は座ったまま、月枝に向かって再度頭を下げた。
「いいえ、刑事さんも遠くからご苦労様です。さっそくなんですが、まずはこれを…。祐ちゃんが私に宛てた例の手紙です。まずは読んでみてください」
月枝はそう言って、白い定型封筒を両手で秋川に差し出した。
それを秋川も両手で受け取った。
「では、拝見させていただきます」
「どうぞ…」
封筒の中には便せんが4枚入っていた。
やや硬い紙質の縦書きの便箋には、決して達筆ではないが、いかにも丁寧に書いたと思われる字が整然と埋まったいた。
”これが自ら命を絶つ決意をした男の書き残した手紙か…”
秋川は目を閉じ、今は故人となった手紙の書き手の冥福を祈って、心ばかりながら黙とうを捧げた。
...
約3分かけて、秋川は4枚の手紙をじっくり2回読み返した。
「向井さん、これは…、なんて表現したらいいのか…。祐二さんはせっかく津藤律子さんと巡り合えたというのに!死の直前に、こんな思いを手紙で残さなければならなかったなんて…」
秋川は両手で強く掴んでいる便せんに視線を落としながら、言葉を振り絞るようにそう語ると、隣の月枝は既に左手の中に収まっていたハンカチを両の目に当てていた。
”今の律子がこの手紙を読んだら、果たして彼の残した思いをどう捉えるのだろうか…”
秋川には、律子がこの地に手繰り寄せられたのは、向井祐二と何らかのさだめで紡がれていたことを、彼女がすでに察知していると推測していた。
すなわち、この手紙の”中味”を知ることが、彼女にとってどんな意味を持つのかは想像できたのだ。
まだ一面識もないそんな律子を慮ると、秋川は胸をえぐられるような思いだった。
午前9時5分前…、公園の駐車場に群馬ナンバーの黄色い軽乗用車が入ってきた。
”あれか!”
その、どこか駆け込むように走ってきた軽が向井月枝の車だと判断すると、秋川はすぐに運転席を降り立った。
そして、駐車した軽の前まで行くと中年の女性が車から出てきた。
「刑事さんですね!」
「はい。千葉県警○○東署の秋川です。向井月枝さんでらっしゃいますね?」
「ええ、お電話ではご親切にどうも…。祐二の叔母で、向井月枝です」
「向井さん!今日は朝早くから遠路ご足労いただきまして、本当にありがとうございます」
秋川は月枝の正面に立って、まずは深くお辞儀をした。
「こちらこそ、どうかお力添えを、ひとつよろしくお願いいたします」
身長150センチあるかないかで、やや小太りな体型の月枝の方は、秋川よりもさらに深く頭を垂れ、10秒近くお辞儀をしていた。
「…じゃあ、今日は風も強くないので、あそこのベンチでお話ししましょうか?」
「ええ、では…」
公園の入り口脇の駐車場から約100M程度中に入った、芝生の上に佇む木製のベンチまで、二人は急ぎ足で歩いた。
そして、横に並んで腰を下ろすと、さっそく月枝はバッグから何かを取り出す動作をしている。
”いよいよだ…。津藤律子と俺がこじ開けた扉の向こうには、い合ったい何が待っているんだ…”
秋川は既に鳥肌が立っていた。
...
「向井さん、今回の甥御さんの件、お気の毒なことでお悔やみを申し上げます。葬儀で立て込んでいるでしょうに、お時間いただいて感謝しています」
秋川は座ったまま、月枝に向かって再度頭を下げた。
「いいえ、刑事さんも遠くからご苦労様です。さっそくなんですが、まずはこれを…。祐ちゃんが私に宛てた例の手紙です。まずは読んでみてください」
月枝はそう言って、白い定型封筒を両手で秋川に差し出した。
それを秋川も両手で受け取った。
「では、拝見させていただきます」
「どうぞ…」
封筒の中には便せんが4枚入っていた。
やや硬い紙質の縦書きの便箋には、決して達筆ではないが、いかにも丁寧に書いたと思われる字が整然と埋まったいた。
”これが自ら命を絶つ決意をした男の書き残した手紙か…”
秋川は目を閉じ、今は故人となった手紙の書き手の冥福を祈って、心ばかりながら黙とうを捧げた。
...
約3分かけて、秋川は4枚の手紙をじっくり2回読み返した。
「向井さん、これは…、なんて表現したらいいのか…。祐二さんはせっかく津藤律子さんと巡り合えたというのに!死の直前に、こんな思いを手紙で残さなければならなかったなんて…」
秋川は両手で強く掴んでいる便せんに視線を落としながら、言葉を振り絞るようにそう語ると、隣の月枝は既に左手の中に収まっていたハンカチを両の目に当てていた。
”今の律子がこの手紙を読んだら、果たして彼の残した思いをどう捉えるのだろうか…”
秋川には、律子がこの地に手繰り寄せられたのは、向井祐二と何らかのさだめで紡がれていたことを、彼女がすでに察知していると推測していた。
すなわち、この手紙の”中味”を知ることが、彼女にとってどんな意味を持つのかは想像できたのだ。
まだ一面識もないそんな律子を慮ると、秋川は胸をえぐられるような思いだった。