息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
共振/その4


律子のバイクの脇あたりで碓井と通話を終えると、新田は秋川に向かって大きな声をでそう告げて、走ってきた戻った。

「どうしたんだ⁉碓井さん、何だって…」

「ここの住人が今日、一人死んだそうです。それで、間もなくこの家にそれを知った住人たちが怒鳴り込んでくるだろって…!薄井刑事はそう言ってました…」

新田は律子と月枝にも聞こえるのを承知で秋川に告げた。
そのことが、緊迫したこの状況を言い当てていた。

「なに…⁉」

思わず秋川は縁側から勢いよく立ち上がった。
律子も後ろを振り返り、月枝と顔を見合わせている…。

「…とにかく連中、住人が死んだのは向井家のせいだって、こじつけてるらしんですよ!詳しい話はあとでってことで、それ以上はよくわかりまりませんが、とにかく住人を抑えておいてくれってことっです。碓井さんもまもなくここに着くそうですから…」

「…」

秋川は思わず今の話を聞いていた律子の様子を確認しながら、状況を整理していた。

”住人の矛先は向井家というより、この律子になるだろう…”

秋葉がそう直感した直後のことだった…。

...

いきなり門の中へと、5人の男女が勢いよく入り込んできたのだ。
いずれも年配で、集落の住人なのは明らかだった。
彼らは皆一様に、強張らせた顔つきをしてこちらに向かってくる。

そして、その先頭に立って歩いているのは、まぎれもなく青屋根の石毛老人だった…。

...


「そこの娘!さっさと立ち去れ‼」

「立ち去れ―‼」

ちょうどバイクを横にした位置で一旦立ち止まった石毛が、杖の先を律子に向けて罵声を浴びせると、他の4人も一斉に呼応した。

状況を感知した二人のよそ者刑事は各々、素早くしかるべきアクションに移った。

まず秋川が数歩前に出て住人達をけん制すると、一方の新田は律子の正面を背にし、自分の体で彼女をふさぐような態勢をとった。

その間、月枝は玄関を回って庭に出ていた。

「どうしたんです、青屋根のおじさん!何があったっていうの?」

月枝は石毛老人とは5M程の距離をとった辺りから、そう問いかけた。

「月枝さんよ、さっき、照子から連絡があったんじゃ。入院してた夫が死によったとな」

「えー、圭二郎さんが!…でも、そのこととこのお嬢さん、どういう関係があるって言うんですか⁉」

「この娘、バイクだけでなく、祐二の念も継ぎおったんじゃ。その娘は祐二に圭二郎を殺させたんだわい。なんと、恐ろしい‼」

”これはひょっとすると、こっちの望んだ展開になるかもしれん。危険は伴うが…。やるか…”

秋川はとっさに判断した。



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