息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
共振/その5


「ご老体…、祐二さんは生前、非情に穏やかな人物だったと聞いていますよ。その彼が仮にそんな念を抱くとしたら、圭二郎さんは何か恨みを買っていたんですか?」

「ふん1大方、最後の造花の卸し先をとられたことでの逆恨みじゃろうて。根性なしの青二才がオヤジの商売を引き継ぐなんて、土台無理だったんだわい!」

秋川はクイっと半身を後ろに向け、新田の体の陰になっている律子の反応を確かめると…。
律子は既に縁側から腰を上げかけていた。

そして…、その表情は秋川の予想通り、頬を紅潮させて、リーダー格の老人を睨みつけていたのだ。

その顔には、明らかに”許せない!”の言葉が書かれていた。

”さあ、この後どうなる…‼”

秋川は心の中でそう呟くと、今度は体を横にして数歩下がり、住人と律子らを両サイドから見渡せる角度を保った。
新田と目が合うと、これから始まることへの警戒感からか、彼は緊張を隠せない様子だった。

”おそらく新田だって、予想されるふたつのリアクションを頭に描いているんだろうさ…”

それは、ここへ向かう車内でのレクチャーによるところなのは、明らかだった。

...


「あんたらはよその刑事のようだが、どうせ、その娘が良からぬことを起こしたんで、ここまで追ってここに来たんじゃろう?その娘は祐二が憑りついておるんだ‼さっさと尾隠しから追い払わんと、更に災いが及ぼされるぞ!」

「祐二に憑りつかれた、その女を追い出せ―‼」

さすがにこの手の掛け合いは息がぴったりで、怒声と共に強いプレッシャーを与えていた。

「さっさとここから出て行け―‼」

ここで5人の中で紅一点の割と大柄な年配女性は、ヒステリックな声を上げてその場にしゃがみ込むと、地面の砂利を掴み、縁側の下あたりに投げつけた。

「ちょっと、美津江さん!なんてことをするの‼」

「月枝さん!」

美津江と呼ばれた女の行為に、思わず月枝は興奮してつっかっかろうとしてところを、すかさず秋川が両腕で囲い込むように月枝の体をやんわりと制止した。

だが、その目は一瞬たりとも見逃さんと、秋川の視界から”全体”が欠けることはなかった。
本日の”メインゲスト”であるバイクも…。



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