息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
共振/その7


その間、石毛老人の方は手に持つ杖を振り回しながら、住人3人に対して盛んににせっついていた。

「みんな、はよ、バイクを壊さんかい‼」

「石毛の御大…、やめた方がいいですよ。早く、”それ”から離れてこっちに来てくださいな」

「腰抜けめ‼ならば、わしがこの杖でやってやる…!」

ここで、石毛は右手の杖を振り上げようとした。

「いかん!そんなバカなことはやめるんだ‼」

「石毛さん、やめなさい‼」

千葉と長野の越境タッグは見事な連携で、石毛を制止した。
ところが…!

...

片腕をぎゅっと握って支えていた老人のか細い体は、秋川のその腕からするっと抜け落ち、石毛は両膝をつくと、何やら苦しそうに呻き始めたのだ。

「ううっ…、ううっ…。苦しい…‼」

石毛は両手を首に当てて苦悶の表情を浮かべていた。

「大丈夫ですか⁉しっかり、石毛さん…!」

ケータイを片手に動画撮影していた碓井は、後ろの石毛に再度かけ寄り、胸をさすって様子を伺っている。

一方の秋川は石毛の体をさすりながらも、この間の律子からは目を離さなかった。

”律子の様子が変だ…。死んだ祐二と交信してるんじゃないのか‼”

新田に寄り添われるかのように縁側の下で立ちすくんでいる律子は、瞬きもせず石毛をじっと睨んだ状態で”固まって”いるようだった。

「秋川さん…!」

新田もその様子が気になって、秋川の指示を求めるように声をあげた。

...

「碓井さん、ご老体を頼みます!」

「わかった!」

秋川は縁側の律子の元に走った。

「律子さん!しっかりするんだ、律子さん‼」

「刑事さん…。あのじじい、許せない…‼」

律子はうつろな目で口調もどこか棒読みだった。

「秋川さん、これって…⁉」

新田は明らかにどう対応していいのかわからず、うろたえていた。
その額には既に脂汗がてかっていた。

「新田、ここで彼女を”止めないと”ヤバいぞ。訴えるんだ!彼女に向かって、心の底から!」

「…はあ」

「バカヤロー‼デカである俺たちの目の前で、死人を出させていいのかよ、あー‼」

「は…、はい‼」

二人は律子の体をゆすり、声をかけ続けた。

「…頑張るんだ!君が止めるんだ!」

「律子さん!祐二さんを思うんなら、やめさせてくれー!頼むから踏ん張ってくれー‼」

新田は絶叫状態だった…。




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