息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
告白/その1
「いい友達ですね。羨ましい…」
向井さんは、下を向いて言った。
何か…、とても、しんみりしているのが伝わってきたんだけど…。
私は、あえて話題を変えて話しかけてみた。
「あのバイク、何年くらい乗っていたんですか?」
「7年ちょっとですね。…こういうのは、まずいかもしれないんですけど、アレ、命の次に大事にしてたもんなんです・・・。」
今までの雰囲気が、一変した一言だった。
「取引終わった直後に、言う事じゃないと思うんだけど、あなたには話しておきたいかな…」
「どうぞ、構いませんよ、お話ししてください」
「薄々、気づいてるでしょうけど、今回のは、多額の借金返済に充てるための出品だったんですよね。こっちに来てもらう条件も、ガソリン代出せないんで。車も携帯も、もう手元になくて、友人から借りてきたんですよ。全部失って、最後の最後でアレを手放さなきゃなんなくなって…」
「…」
私…、さすがにすぐには、声が出なかったよ。
...
「あのー、そういう事でしたら、落札代金、もうちょっと上乗せっていうか、少しくらいだったら…」
私はしどろもどろしながら、向井さんのうつ向いた横顔に向かって話しかけた。
すると向井さんはこちらを向いて、そして、さっきみたいに笑顔で言った。
「いや、取引ですから。代金はあれでいいんです。ただ今日、あなたに会って、どうしてもこっちの事情を伝えたくなったんです。言った後で変ですが、気にしないでください」
「あの…、でも、どう考えても安く譲ってもらったんで…」
「いいんですよ。ありがとうございます。気持ちだけはいただきますよ。それより、せっかくこんなところまで来てもらったんで、この地蔵のことでもお話ししますよ、話題変えて。あっ、時間大丈夫ですか?」
「全然、大丈夫です(笑顔)。…なんか、風情ありますよね。このお地蔵さん」
私は、それ以上は触れず、美香と共に取引の完了を見守ってくれた、この”石の御仁”の話を聞くことにした。
「この地蔵は大昔からあったものらしいんですけど、この辺りは明治の初期くらいまで、狐を捕まえて祭りで生贄に捧げてたり、それから、食用にしてたとも伝えられているんです。真偽は怪しいですけどね…」
急におどろおどろしい話になってきた…。でも、ちょっと怖くて興味深いわ。
…
「…狐が村人に追われて、よく隠れたのがこの地蔵の影なんですよ。ここに逃げて飛び込んできた狐は、ちょうど後ろにある杉の木に吸い込まれて姿を隠すことができたんだそうなんです。言い伝えでは…」
恐ろしい話じゃん、なんか怪談話のノリになってきた。
「そのうち、逃げ込む狐が後を絶たなくなり、杉の木が、どんどん伸びていったらしいんです。それで、今の形になって・・・」
二人はほぼ同時に、さっき、美香と見上げた角度で、天に向かって伸びた大木の最上部を凝視した。
「横に枝が1本だけ、あるでしょ。丈夫そうな。あれに縄を下げると、首を吊るにはちょうどいいらしくて・・・。今でも、年に1人くらいは、ここで首を括っているんですよ」
「・・・。」
コワイ、怖いわー!”お隣”の腕にでも、しがみ付いちゃおうかしらん。
「それは、昔から大量に殺され続けてきた、狐の怨念が、この大木に凝縮して、この地の住民の子孫に復讐してるんだと・・・、つまり、狐の呪いで、我々、ここに住み続けるものが、自殺に追い込まれているんだと・・・」
「とても怖い話ですね。たとえ、作り話だったとしても」
冗談抜きで恐ろしくなって、鳥肌がたってきた。
「いい友達ですね。羨ましい…」
向井さんは、下を向いて言った。
何か…、とても、しんみりしているのが伝わってきたんだけど…。
私は、あえて話題を変えて話しかけてみた。
「あのバイク、何年くらい乗っていたんですか?」
「7年ちょっとですね。…こういうのは、まずいかもしれないんですけど、アレ、命の次に大事にしてたもんなんです・・・。」
今までの雰囲気が、一変した一言だった。
「取引終わった直後に、言う事じゃないと思うんだけど、あなたには話しておきたいかな…」
「どうぞ、構いませんよ、お話ししてください」
「薄々、気づいてるでしょうけど、今回のは、多額の借金返済に充てるための出品だったんですよね。こっちに来てもらう条件も、ガソリン代出せないんで。車も携帯も、もう手元になくて、友人から借りてきたんですよ。全部失って、最後の最後でアレを手放さなきゃなんなくなって…」
「…」
私…、さすがにすぐには、声が出なかったよ。
...
「あのー、そういう事でしたら、落札代金、もうちょっと上乗せっていうか、少しくらいだったら…」
私はしどろもどろしながら、向井さんのうつ向いた横顔に向かって話しかけた。
すると向井さんはこちらを向いて、そして、さっきみたいに笑顔で言った。
「いや、取引ですから。代金はあれでいいんです。ただ今日、あなたに会って、どうしてもこっちの事情を伝えたくなったんです。言った後で変ですが、気にしないでください」
「あの…、でも、どう考えても安く譲ってもらったんで…」
「いいんですよ。ありがとうございます。気持ちだけはいただきますよ。それより、せっかくこんなところまで来てもらったんで、この地蔵のことでもお話ししますよ、話題変えて。あっ、時間大丈夫ですか?」
「全然、大丈夫です(笑顔)。…なんか、風情ありますよね。このお地蔵さん」
私は、それ以上は触れず、美香と共に取引の完了を見守ってくれた、この”石の御仁”の話を聞くことにした。
「この地蔵は大昔からあったものらしいんですけど、この辺りは明治の初期くらいまで、狐を捕まえて祭りで生贄に捧げてたり、それから、食用にしてたとも伝えられているんです。真偽は怪しいですけどね…」
急におどろおどろしい話になってきた…。でも、ちょっと怖くて興味深いわ。
…
「…狐が村人に追われて、よく隠れたのがこの地蔵の影なんですよ。ここに逃げて飛び込んできた狐は、ちょうど後ろにある杉の木に吸い込まれて姿を隠すことができたんだそうなんです。言い伝えでは…」
恐ろしい話じゃん、なんか怪談話のノリになってきた。
「そのうち、逃げ込む狐が後を絶たなくなり、杉の木が、どんどん伸びていったらしいんです。それで、今の形になって・・・」
二人はほぼ同時に、さっき、美香と見上げた角度で、天に向かって伸びた大木の最上部を凝視した。
「横に枝が1本だけ、あるでしょ。丈夫そうな。あれに縄を下げると、首を吊るにはちょうどいいらしくて・・・。今でも、年に1人くらいは、ここで首を括っているんですよ」
「・・・。」
コワイ、怖いわー!”お隣”の腕にでも、しがみ付いちゃおうかしらん。
「それは、昔から大量に殺され続けてきた、狐の怨念が、この大木に凝縮して、この地の住民の子孫に復讐してるんだと・・・、つまり、狐の呪いで、我々、ここに住み続けるものが、自殺に追い込まれているんだと・・・」
「とても怖い話ですね。たとえ、作り話だったとしても」
冗談抜きで恐ろしくなって、鳥肌がたってきた。