息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
別部屋/その1
「…いずれにしても、今後、こっちはそちらともやり取りをしながら進めざるを得ません。で、秋川さん、新田君…、千葉の事案は見込的には”別部屋”に流れそうですかね、やはり…。関係者の意向とかを予想するとどうなんだろうか…」
言うまでもなく、その方向性こそ、碓井にとっては一番の気がかりであったのだ。
...
「今のところ、向井月枝さんは了解の上、”それ”を希望されていますが、他は流動的です。当然、捜査は継続します。しかし…、個人的には、この事案は”別部屋”で、希少事例として残すべきじゃないかと考えていますよ。これから以後、その範疇の事件が発生した際には、かなり参考値の高い側面が多々含まれていると思えるんです」
碓井は秋川の顔をじっと見つめながら、彼の見解をかみ砕いているようだった。
そして少し間をおき、自ら何かを吹っ切るような口っぷりで語った。
「別部屋こと、ジャパン・アナザー・アプローチ・オフィス(JAAO)、通称ジャーオか…。私なんかでも、言葉でしか承知していないが…。ふう…、やっぱり現役のデカには抵抗がある。なあ、新田君…」
「はあ、まあ…」
さすがにこういったフリをされると、今の新田には、どうしてもこういった反応になってしまう。
3人は、当面、密なやり取りの必要性を確認し合い、今日のところはここで区切りとした。
秋川と新田は一階の待合で待機している律子の元に向かった。
...
「…津藤さん、お待たせしました。ええと、まずはお母さんに一報入れましょう。私が簡単にお話しをして、その後代わりますので」
「すいません…」
”律子の顔色から、体調は心配なさそうかな…”
秋川は、この後バイクでの長距離運転に問題なさそうであれば、律子を今日中に家へ帰したやりたかったのだ。
...
秋川のケータイで母親と7、8分話していた律子は終始泣いていた。
同じく今日千葉へ帰る二人の刑事は、その様子を包み込むように見守っていた。
「ご両親へは後日、お会いして詳しく説明させてもらうつもりですが、この後、概ねは私からお話ししておきますよ。今時点ではいきなり全部とはいかないですし、差し障りない程度に留めますよ。その辺を含んで、お宅へ戻ったら、あなたからもうまく話してください。まあ、なにしろこっちからは、親御さんのご心配を払しょくすることを心がけますので…」
「いろいろお気遣い、ありがとうございます。…刑事さん、それであのう…、警察以外の選択肢のことですが…。先ほどの続き、いいですか?」
「ええ…。でも、さっき言った通り、最初に話した時の状況とは変わって来たんで、今はじっくり考えていただければと思うんです。滝沢さんの身辺捜査も継続しますしね」
「はい。これからゆっくり考えるつもりです。その上で、あの、たしか、”別部屋”でしたっけ?それ、もう少し内容というか仕組みというか、詳しく教えてくれますか。何しろ、そんなのが存在するなんて初めて知ったので…」
秋川は左隣の律子から、右隣に掛けている新田の方へ首を向け、若い後輩を見やった。
”この際、新田への説明も兼ねて、ここでジャーオの全容を話すか…”
「では…」
新田も、秋川がこの場で”別部屋”のベールを一気に取り払ってくれるつもりだと察した。
”心の準備はできてるし、いっそ全部知ってやる!”
駆け出しの刑事である新田には、大げさながら、そのくらいの決心を要するほど、”別部屋”の正体なんぞ、できれば知りたくない代物だったのだ。
...
「…JAAO(ジャーオ)ですか?」
「まあ、文字通りもう一つのアプローチってとこです。一応、民間企業だが、海外数か国に活動する同様の企業と連携して、言ってみれば、各社の症例データを各国で共有しているんです。それを更にアメリカならFBIとかの捜査機関、その他の国家機関にも情報提供している。いわばクライアントは情報提供先になります」
「じゃあ、仮に今回ジャーオへ依頼となっても、私なんかの当事者や情報提供者は費用がかからないんですか?」
「そうです。そもそも、ジャーオや海外の同様企業は、研究機関で、その運営費用は各国まとめたキングスポンサーが捻出して、採算が取れているようでしてね。言ってみれば、超常現象だけじゃないが、捜査機関で解明できない事案の周回調査、研究結果を症例化したそのデータは、国境をまたいで活用されているって訳です」
「…」
早くも秋川の両隣の若い両人は口をあんぐりとあけ、あっけにとられている様子だった。
「…いずれにしても、今後、こっちはそちらともやり取りをしながら進めざるを得ません。で、秋川さん、新田君…、千葉の事案は見込的には”別部屋”に流れそうですかね、やはり…。関係者の意向とかを予想するとどうなんだろうか…」
言うまでもなく、その方向性こそ、碓井にとっては一番の気がかりであったのだ。
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「今のところ、向井月枝さんは了解の上、”それ”を希望されていますが、他は流動的です。当然、捜査は継続します。しかし…、個人的には、この事案は”別部屋”で、希少事例として残すべきじゃないかと考えていますよ。これから以後、その範疇の事件が発生した際には、かなり参考値の高い側面が多々含まれていると思えるんです」
碓井は秋川の顔をじっと見つめながら、彼の見解をかみ砕いているようだった。
そして少し間をおき、自ら何かを吹っ切るような口っぷりで語った。
「別部屋こと、ジャパン・アナザー・アプローチ・オフィス(JAAO)、通称ジャーオか…。私なんかでも、言葉でしか承知していないが…。ふう…、やっぱり現役のデカには抵抗がある。なあ、新田君…」
「はあ、まあ…」
さすがにこういったフリをされると、今の新田には、どうしてもこういった反応になってしまう。
3人は、当面、密なやり取りの必要性を確認し合い、今日のところはここで区切りとした。
秋川と新田は一階の待合で待機している律子の元に向かった。
...
「…津藤さん、お待たせしました。ええと、まずはお母さんに一報入れましょう。私が簡単にお話しをして、その後代わりますので」
「すいません…」
”律子の顔色から、体調は心配なさそうかな…”
秋川は、この後バイクでの長距離運転に問題なさそうであれば、律子を今日中に家へ帰したやりたかったのだ。
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秋川のケータイで母親と7、8分話していた律子は終始泣いていた。
同じく今日千葉へ帰る二人の刑事は、その様子を包み込むように見守っていた。
「ご両親へは後日、お会いして詳しく説明させてもらうつもりですが、この後、概ねは私からお話ししておきますよ。今時点ではいきなり全部とはいかないですし、差し障りない程度に留めますよ。その辺を含んで、お宅へ戻ったら、あなたからもうまく話してください。まあ、なにしろこっちからは、親御さんのご心配を払しょくすることを心がけますので…」
「いろいろお気遣い、ありがとうございます。…刑事さん、それであのう…、警察以外の選択肢のことですが…。先ほどの続き、いいですか?」
「ええ…。でも、さっき言った通り、最初に話した時の状況とは変わって来たんで、今はじっくり考えていただければと思うんです。滝沢さんの身辺捜査も継続しますしね」
「はい。これからゆっくり考えるつもりです。その上で、あの、たしか、”別部屋”でしたっけ?それ、もう少し内容というか仕組みというか、詳しく教えてくれますか。何しろ、そんなのが存在するなんて初めて知ったので…」
秋川は左隣の律子から、右隣に掛けている新田の方へ首を向け、若い後輩を見やった。
”この際、新田への説明も兼ねて、ここでジャーオの全容を話すか…”
「では…」
新田も、秋川がこの場で”別部屋”のベールを一気に取り払ってくれるつもりだと察した。
”心の準備はできてるし、いっそ全部知ってやる!”
駆け出しの刑事である新田には、大げさながら、そのくらいの決心を要するほど、”別部屋”の正体なんぞ、できれば知りたくない代物だったのだ。
...
「…JAAO(ジャーオ)ですか?」
「まあ、文字通りもう一つのアプローチってとこです。一応、民間企業だが、海外数か国に活動する同様の企業と連携して、言ってみれば、各社の症例データを各国で共有しているんです。それを更にアメリカならFBIとかの捜査機関、その他の国家機関にも情報提供している。いわばクライアントは情報提供先になります」
「じゃあ、仮に今回ジャーオへ依頼となっても、私なんかの当事者や情報提供者は費用がかからないんですか?」
「そうです。そもそも、ジャーオや海外の同様企業は、研究機関で、その運営費用は各国まとめたキングスポンサーが捻出して、採算が取れているようでしてね。言ってみれば、超常現象だけじゃないが、捜査機関で解明できない事案の周回調査、研究結果を症例化したそのデータは、国境をまたいで活用されているって訳です」
「…」
早くも秋川の両隣の若い両人は口をあんぐりとあけ、あっけにとられている様子だった。