息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
別部屋/その2


ここで秋川は告白することにした。

「このデータは、日本の警察官もID登録すれば閲覧が可能なんです。それで、実は今回、津藤さんと向井祐二さんの魔訶不思議なコンタクトが気になって、ジャーオを通じて事前に海外の症例データを検索してみたんです」

新田と律子は、ともに、”えーっ⁉”という声が出かかっていた。

「…そしたら、北米とカナダ国境付近の山間部地帯で似たような事例が見つかりましてね…」

それはまさに、壮大な自然に覆われた土地と、そこに代々住み着いた人の営みが生んだ因果な風習を長年土着して醸造された、人と大地とのエネルギーの共振を感じさせる事象だった。

秋川には、そこの地の周辺山間部と、日本のフォッサマグナのエネルギー作用には共通軸があると捉えた視点で、律子の幼少期に向井祐二と遭遇した不可思議な現象を海外の事件と比較照合していたのだ。

...


「…まあ、話を戻しましょう。別部屋では、警察の捜査では解明できない事件の真相を究明することや、単純に犯人を断定するということを目的にはしていない。これが前提になります。ただ、起こり得た現実に、警察の切り込めない部分も含めて、あらゆる角度から考察と検証を積み重ね、その結果報告を出します」

「秋川さんは、祐二さんの家で言われてましたよね。滝沢さんが超常現象によって命を失ったのであれば、次の犠牲者を出すことを阻止するためのヒントは、警察の捜査の範疇を超えないと難しいと…。だからジャーオが介入して、考察結果が出ればヒントが得られるかもしれない。そのお考えからだってんですね?」

「はい。ですが、今回で言えば、滝沢さんの遺族側からしたら、ジャーオから知らされるのは、おそらく超常現象を否定しない上での推測に留まります。そこには現実に則した確証が伴わない。従って、遺族の受け取り方しだいで、一概に望ましいことかは言えません。返って、家族には苦しみを増やす面も考えられます」

ここで新田が大きく頷いている様子を、律子の目が捕らえているのを秋川は見逃さなかった。

「…何しろ、”別部屋”への移行について方針を定めるには、私共警察関係者にとって極めてデリケートな判断と対応を伴うことになる。…津藤さんには、さっきの私の申し上げたことと矛盾してこんな事言うのも節操ないが、この際、慎重にお考えいただければよろしいと思います」

「…では、もう一つお聞きしていいですか?」

「なんでしょう?」

「月枝さんはどういう気持ちから、別部屋へ持ち込むことを希望されたんでしょうか…」

「…」

これは律子にとって、素朴に知りたいところだったのだろう。
だが、同時に律子自身、祐二の”深意”を自らに結論付けする指針にも相当していたのだ。

秋川は彼女が”これ”を自分に問うことを予想していた。
それだけに、今の彼女にどう告げるべきかの考えを巡らしていた…。




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