※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

7.婚約者は昨日別れたばかりの元カレでした(2)

***


「ミア、オスカー様と知り合いだったのかい?」


 尋ねたのは父だった。私達を席に誘導し、穏やかに首を傾げながら私とオスカーを交互に見る。


「それはっ……」

「えぇ。学園で顔を合わせる機会がありました」


 オスカーは朗らかに微笑みながら、私のことを見つめた。学園で見せる何処か気の抜けた表情じゃなくて、一部の隙も無い完璧な笑み。こんなの、私が知ってるオスカーじゃない。そう思うと胸の辺りがモヤモヤとつっかえる感じがした。


「そうですか。いや、実はこれまでも娘には縁談が来ていたのですが、本人が嫌がりまして。オスカー様との縁談はすぐに快諾したものですから――――」

「たまたまタイミングが被っただけ。相手がオスカー様だと知っていたら受けなかったわ。だって、私と彼とじゃあまりにも釣り合わないもの。公爵家のご令息と成金娘じゃ、ね」

「ミア」


 父は咎めるような表情で私を見た。そりゃぁ相手は格上も格上、公爵家の令息で、こちらから縁談を断れるような相手じゃない。だけど、公爵家が私みたいな爵位もない成金と縁談を持ち掛けるなんて、とてもじゃないけど信じられなかった。


「釣り合いだなんて……御当主の事業の手腕は素晴らしいし、ミアは俺には勿体ないぐらい素敵な女性です。それに、俺の父は今、身分制度の見直しを進めている所でして」


 オスカーはまるで教科書でも朗読するかのように、そんなことを言う。普段は言葉数が少なくてどちらかというと寡黙な印象なのに、今日は妙に饒舌だ。


「そうですか。いや、本当にミアは良いご縁に恵まれました」


 父はそう言って席を立つ。私も慌てて椅子を引いたら、オスカーの手が私を制した。


「ミアはここに残って。話がまだ終わっていないから」


 ニコリと人当たりの良い笑みを浮かべるオスカーに、父が穏やかに微笑む。それから無情にも、私とオスカーは二人きりにされてしまった。
 しーーんと、不気味な程の沈黙が流れて、私はひたすら俯く。心臓が嫌な音を立てながら軋んだ。気を抜くとすぐに涙が零れ落ちてしまいそうで、必死で気持ちを奮い立たせた。


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