※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 これまでは、オスカーに触れられることが、ただひたすら嬉しかった。
 キスの後に見せてくれる嬉しそうな笑顔が、優しい眼差しが、あまりにも好きで。口数の少ない私達だけど、触れ合うことで互いの気持ちを伝えている。そう思っていたのに。


(この人はどれだけ私を苦しめたら気が済むんだろう)


 本当はもう、これ以上無いほどにオスカーのことが好きだった。だからこそ、こんなに苦しいのに。もう苦しまなくて良いように、手を放そうとしたのに。それすら許してくれないなんて。


「――――明日からも、いつもの場所で待ってるから」


 オスカーはそう言って私の頭を撫でると、一人部屋を後にした。

 だけど翌日も、その翌日も、私はガゼボには行かなかった。
 代わりに、これまで利用することのなかった食堂に赴けば、自然とそれまで入ってこなかった色んな情報が入ってくる。


「王女様とオスカー様が」

「いよいよ発表まで秒読み?」


 王家の私生活への関心は、いつの時代も相当強いもので。そのお相手であるオスカーの噂も、それに比例するかのように多かった。全部、私が知らなかっただけだ。
 今頃オスカーはあのガゼボに一人でいるのだろうか。私のいないあの場所で、一体何を考えているんだろう。


(こんな風に四六時中誰かに噂されてたら、きっと息が詰まるよね)


 そう思うと心が揺れた。
 
 そんなことが続いたある日のこと。信じられないことが起こった。


「失礼……ミア様ですね」


 テール級の学舎には似つかわしくない、王家の紋章を身に着けた男性が私に声を掛けてきた。恭しい態度、身のこなしは、一目見て騎士だと判別できる。


「突然申し訳ございません。主があなたと話がしたいと申しておりまして、ご同行願えますか?」

「え?」


 現在この学園で王家に属するのは、王女様ただ一人。この騎士の主は王女様ということになる。
 当然断れるはずもなく、私は騎士の後に続いた。


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