※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「あなたがミア様ね」


 初めて間近でお会いした王女様は、まるで物語の中から飛び出してきたみたいな、可憐で美しい方だった。少し近づくだけでめちゃくちゃ甘い香りがしそうな、男心を擽るタイプだと思う。


(平凡な私とは正反対)


 そう思うと、封印していた劣等感が少し疼いた。
 王女様は騎士を下がらせて、私と二人きりになった。正直、一生お目にかかることはないと思っていた存在との対峙に、緊張が走る。粗相をするのではないか、不敬に当たる言動を取ってしまうのではないか――――そう思うと、ダラダラと汗が流れ出た。


「そんなに緊張しないで。わたくしはただ、あなたに謝りたかったのです」

「……え?」


 初対面の、それも王女様に謝られるような覚えは私にはない。そっと小首を傾げると、王女様は困ったように笑った。


「オスカーのこと……彼はあなたの婚約者なのに、まるでわたくしと婚約するかのように噂されてしまって、ずっと申し訳なく思っていました」

(え?)


 正直言って、何から驚けばいいか分からなかった。
 王女様が私とオスカーの婚約やご自身とオスカーとの間に流れている噂をご存じなこと、それでいて私に申し訳なく思っているだなんて、想像したことも無かった。
 そもそも私は、どうしてオスカーが未だに私との婚約を解消しようとしないのか、理解ができていない。縁談が出たこと自体が理解できていないのだから当たり前だけど、例えば王女様との噂を緩和したかったにしても、私以外に都合の良い女性は沢山いるだろうし。仮初だとしても、私と婚約を結んだことは、王女様との婚約に差し障るように思える。


「あの……結婚するんじゃないのですか?」

「え?」

「オスカーと。結婚なさるのだと思っていました」


 私は思い切って疑問を口にした。
 王女様はキョトンと目を丸くして、それから首をブンブン横に振った。


「違うわ、違う。まぁ……オスカーったら、大事なことをちっとも話していないのね」


 王女様は私の元に駆け寄ると、そっと手を握った。


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