※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(なっ、何? 今の)


 未だに心臓はドクンドクンと大きく跳ね続けている。目を背けたいのに見ていたい。そんな相反する気持ちが、グラディアを突き動かす。まるで吸い寄せられるように、エーヴァルトを見ると、心臓は更に激しく動いた。


(わたくし……わたくし…………)


 それはクリストフの時には感じたことのない渇望だった。喉のあたりが熱く疼き、身体中で血が騒めく。身体が宙に浮いたみたいにふわふわして、思考が上手く纏まらない。


『遊びの出来ない女はお断りだ』


 けれど、頭の中でエーヴァルトの声が唐突に響き、グラディアはふと我に返った。彼に初めて会った時に交わしたやり取りが、鋭利にグラディアを切りつける。


『絶対俺にマジになるなよ?』


 エーヴァルトはあの時そう言った。面倒ごとはごめんだと、ハッキリそう口にしていたというのに。


(そうよ……約束を違えるわけにはいかないわ。わたくしのこの気持ちは、彼にとって迷惑でしかないのに)

「グラディア?」


 その時、エーヴァルトが怪訝な表情でグラディアを呼んだ。グラディアはゴクリと唾を呑み込み、無理やりに笑う。


「何でもありませんわ」


 恋心を隠すのは二回目だ。前回よりもずっと、上手く立ち回れるに違いない。そう思っているのに、グラディアは何故か前よりも上手く笑えなかった。


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