※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***

(もうすぐ、24時間)


 少し離れた所で、キース様とマリア様が微笑み合っている。あと数分で、キース様はまた、わたしの手の届かない人になってしまう。
 手の中にある惚れ薬の入った小瓶をギュッと握りしめ、わたしは眉間に皺を寄せた。あんなにも完璧な二人の側に近づけるほど、わたしの精神は図太くない。けれど、今頑張らなければ、わたしはこの恋を永遠に失ってしまう。


(薬の効果が切れた瞬間、キース様はどんな風に思うだろう?)


 頭の中を占めていた『わたし』への気持ちが無くなって、我に返って―――マリア様にどんな言葉を捧げるのだろう。抱き締めるだろうか。わたしには許してくれなかった口付けをして、愛していると囁くのかもしれない。


(いやだ、そんなの見たくない)

「ハナ?」


 そう思ったその時、頭上でキース様の声が響いた。


「あっ……キース様」

「来てくれてたんだね。ちっとも気づかなかったよ」


 そう言ってキース様はニコリと微笑む。傍らにはマリア様と、ケネスがいて、わたしの心臓はドクンと疼いた。


(そうだ……惚れ薬)


 わたしの作った薬は、肌に直接吹き付けることで効果を発揮する。
 シュッ。
 キース様の無防備な手首に惚れ薬を吹き付けながら、わたしは心の中で大きなため息を吐いた。止めようと――――潮時だと思ったのに、またわたしは、好きな人に偽りの感情を植え付けてしまった。


(最悪だ)


 気を抜いたら涙が流れ落ちそうだった。


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