※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(うそ……)


 想像だにしなかった真実に、心臓が変な音を立てる。普段なら自分のポンコツっぷりを嘆くけど、今はそんな余裕すら存在しない。


「おまけに、ハナが『薬の効果だ』って勘違いしてるのに気づくまで、結構時間かかっちゃったし」


 最悪、って小さく口にしながら、キース様は子どもみたいに唇を尖らせた。


「本当に? キース様がわたしを……?」

「さっきからそう言ってるんだけど」


 キース様はゴツンとわたしに額をぶつけた。衝撃のあまり、わたしは目を見開き、キース様から顔を背けようとする。けれどキース様はわたしの両頬をガシッとホールドした。


(嘘……そんな、キース様がわたしのことを好きだなんて…………!)


 そんな、自分に都合のいいことが起きるはずがない。だからこそわたしは、惚れ薬なんて都合の良いものを作ったのだ。自然に偶然に、そんな奇跡みたいなことが起きるなんて信じられない。


「本当に、ほんっとーーに効いてなかったんですか?」

「本当だって。普段なら自分の魔法の方を疑う癖に。タイミングが悪すぎる」


 キース様はそう言ってわたしの頬をグニグニと引っ張った。ヒリヒリとした痛みがわたしを襲う。だけどそれは、わたしが覚悟していたものよりもずっと甘くて、優しくて。さっきまで瞳でスタンバってた涙と違う種類の涙が一気に込み上げてくる。


「だって……だって…………! キース様にはマリア様がいるじゃないですか! 婚約者がいる人から告白を受けるなんてミラクル、誰も信じませんよっ」

「俺や姫様が婚約を公言したことは無い。周りの誰かが吹聴して回ったデマが、そのまま広がっただけだ。第一、姫様には別に想い人がいるんだぞ?」

「うそっ! わたしに都合よく話が進みすぎです! そんなっ……そんなことって…………!」


 ポロポロと流れる涙を、キース様が唇で拭った。彼の唇がわたしに触れるのはキスを最初に強請ったあの日以来で。心臓が変な音を立てて鳴り響いた。


< 138 / 528 >

この作品をシェア

pagetop