※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

10.私の婚約者様は私のことが大嫌いだ(1)

 私の婚約者様は、私のことが大嫌いだ。



「――――姫様、一体どうして、こんなところに一人でいらっしゃるんですか?」


 呆れたような声音。顔を上げると、そこには件の婚約者様――――レイリーが眉間に皺を寄せ、私のことを見下ろしていた。
 太陽の光を受けてキラキラ輝く薄い茶髪に、白と藍色のコントラストが綺麗な騎士装束がとてもよく似合っている。青と紫を混ぜたみたいな夜空色をした瞳を見つめながら、私は小さくため息を吐いた。


「息抜き位しても良いでしょ? 私に姫君としての教育はあまり必要ないのだし」


 もっと可愛げのある言い方が出来れば良いのに、レイリーの物言いに呼応するかの如く、私の言葉もつっけんどんになる。


「せめて供のものを付けてください。いくら城内とはいえ、一人では危ないですよ」


 私の隣にしゃがみつつ、レイリーはため息を吐いた。
 辺り一面に咲き乱れる花々。それが、庭師が丹念に世話をしたものとも知らず、思うがままに摘んで遊んでいた幼い日々を思い出すと、少しだけ胸が苦しくなる。


(昔はレイリーも、私の髪に花を飾ったりしてくれてたのにな)


 あの頃とは比べ物にならない程、強く逞しくなったレイリーの姿を盗み見つつ、私の瞳に薄っすらと涙が浮かんだ。

 レイリーと私は幼馴染だった。
 少し年の離れた兄や姉たちの影響か、当時の私は少し擦れた子どもで。感情の起伏が小さいというか、あまり物事に興味を示すことがない。そんな私を心配した父――国王が遊び相手として連れてきたのがレイリーだった。

 父の親友の子であるレイリーは、私とは違って感情豊かな子どもだった。よく笑うし、よく怒る。見ていてこちらが疲れるほどだったけど、何となく彼の側に居ると心地よくて。次第に私も、人並に子どもらしく変わっていった。
 レイリーはその後も、私のことを『王女』として扱わず、対等な友人として接してくれた。そもそも彼は、誰に対しても礼儀正しくて優しかったってだけだけど、私はそれが、とても嬉しかった。

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