※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 それからも、レイリーは時折私の元に訪れては、優しい言葉を掛けてくれるようになった。
 婚約者としてではなく、騎士としてならば、彼は私にも寛容になれるらしい。それは、彼からずっと冷たくされてきた私からすれば、嬉しくもあり、悲しいことだった。
 どんなに彼との関係が改善したところで、私はもう、彼と結婚することはできない。そう思うと、レイリーが向けてくれた優しさは、まるで毒のように私の心と身体を蝕むのだ。


「いよいよ明日ですね」


 レイリーがポツリとそう漏らす。
 明日、私はこの国を発つ。この国のために、隣国の王妃になって、姫として生まれた責務を果たすのだ。


「嬉しいでしょう? ずっと、あなたの望みだったのですから」

「え?」


 レイリーの言葉に、私は思わず首を傾げた。
 私はこれまで、レイリーの妻になること以外を望んだことなんてなかった。彼にもう一度私へ笑いかけてほしい。人並みで良いから、仲の良い夫婦になりたい。それ以外、望んだことなんてなかったというのに。


「私は……この国の姫ですから」


 精一杯の強がりを口にしつつ、私は夜空を見上げる。


「ええ。存じ上げていますよ」


 そう言ってレイリーは切なげに笑った。その笑顔があまりにも寂し気で、今にも泣き出しそうで、胸が大きく震えた。


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