※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 グラディアの瞳は困惑したように揺れ動いていた。
 確かに、エーヴァルトと出会った頃のグラディアが、今の事実を知らされていたとしても、信じることは難しかっただろう。案外プライドの高いグラディアのことだ。寧ろ、ロジーナとの仲は険悪になっていたかもしれない。


「それに、そこの馬鹿がわたしたちを分断するように画策していたの。自分のせいでわたし達の仲が拗れるのが余程面白かったのね。
いつの間にか家人を買収されて、わたしが書いた手紙も、グラディアが書いた手紙も、全部全部握りつぶされていたみたい」

「そっ……そんな!」


 あまりのことにグラディアは悲痛な叫び声を上げた。直接話せば感情的になるからと、グラディアはロジーナに向けて手紙を認めていた。けれど、返事が返ってくることは無く、落ち込んでいたというのに。


「おまけにこの男、他の令嬢達を使って互いの悪口を吹き込ませたりしてたのよ。さっきだって無理やり割り入って、わたしたちが会話をしないように仕向けていたでしょう? おかげで全部がこの男のせいだって確信が持てるまで、今日まで掛かってしまった。本当に質が悪いったらありゃしないわ」


 グラディアの顔面は蒼白だった。幼馴染からの信じられない仕打ちに、開いた口が塞がらない。呆然としたグラディアを、エーヴァルトが励ますように抱き寄せた。


「ごめんなさい、グラディア。あなたがわたしのことで心を痛めてるって知っていたのに――――だけど今なら、グラディアはきっと、わたしの言葉に耳を傾けてくれると思ったの。グラディアの側にはいつも、あなたがいたから」


 そう言ってロジーナはエーヴァルトを見た。生温かい視線。エーヴァルトは気まずさにそっと目を逸らした。


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