※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
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以降、エヴァレットとアンナは定期的に逢瀬を重ねるようになった。
最初は心配していたゴッドウィンオースティン家の面々も、回を重ねるごとに慣れていき、今では殆ど何も言わなくなった。時折、モーリスから探りが入るものの、自身に害がないと分かると、すぐに引き下がる、というのが常態化している。
エヴァレットは、知れば知るほど、誠実で謙虚な人柄だった。初めての逢瀬で『勉強は苦手』だと言っていたが、その実誰よりも博識だし、日々知識を磨くための努力をしていることが伺える。おまけに、それを誰にも悟られないようにしているところが意地らしく、アンナには好印象に映った。
(これまで、浅知恵の男性ばかり見てきたから)
そういう男性ほど、くだらない自分自慢が多いのが特徴で。容姿や能力値といったものに加え、忙しい自慢、財力や家柄、果てには自分以外の家族を自慢してくる人間も多くいる。
(己の力で得たもの以外を誇るだなんて、馬鹿らしい)
彼等が『自分にある』と主張したもの全てをエヴァレットは持っている。けれど彼は、それを誇示することはない。それこそが、真に誇り高き人間の取るべき行動なのかもしれないとアンナは思った。
(わたくしはどうだったかしら?)
散々馬鹿にしてきた、己の過去の婚約者候補達。けれどアンナは、そんな彼等よりも余程馬鹿だったのかもしれない。エヴァレットと一緒に過ごしながら、アンナは少しだけ、そんなことを考えるようになっていた。
「まぁ、そんなに貴重なものなんですの?」
「ええ。プルナ山脈でしか取れない希少価値の高いものだそうです」
ある日エヴァレットは、取り寄せたばかりの宝石の原石をアンナに見せてくれた。こぶし大の大きな原石で、赤と白の綺麗なグラデーションになっている。
「なんだか、宝石にしてしまうのが勿体ないほど、綺麗な石ですわね」
アンナはそう言って瞳を輝かせた。研磨し、形を変える必要が無いほど、その原石は美しく輝いて見える。
けれどエヴァレットは穏やかに目を細め、小さく首を横に振った。いつもアンナの考えを肯定してくれるエヴァレットにしては、珍しい反応だ。アンナはそっと首を傾げた。
「これは、君に贈るために用意した石だから」
エヴァレットはそう口にしたかと思うと、アンナの左手薬指をそっと撫でた。
「へっ?」
らしくない素っ頓狂な声が上がると同時に、アンナの指先はエヴァレットの口元へと運ばれていて。身体中に激震が走り、燃えるように熱くなるのが分かる。アンナにとって生まれて初めての感覚だった。
「完成したら、受け取ってくれる?」
そう口にしたエヴァレットの瞳は、碧く美しく澄んでいる。気づけばアンナはコクリと頷いていた。
以降、エヴァレットとアンナは定期的に逢瀬を重ねるようになった。
最初は心配していたゴッドウィンオースティン家の面々も、回を重ねるごとに慣れていき、今では殆ど何も言わなくなった。時折、モーリスから探りが入るものの、自身に害がないと分かると、すぐに引き下がる、というのが常態化している。
エヴァレットは、知れば知るほど、誠実で謙虚な人柄だった。初めての逢瀬で『勉強は苦手』だと言っていたが、その実誰よりも博識だし、日々知識を磨くための努力をしていることが伺える。おまけに、それを誰にも悟られないようにしているところが意地らしく、アンナには好印象に映った。
(これまで、浅知恵の男性ばかり見てきたから)
そういう男性ほど、くだらない自分自慢が多いのが特徴で。容姿や能力値といったものに加え、忙しい自慢、財力や家柄、果てには自分以外の家族を自慢してくる人間も多くいる。
(己の力で得たもの以外を誇るだなんて、馬鹿らしい)
彼等が『自分にある』と主張したもの全てをエヴァレットは持っている。けれど彼は、それを誇示することはない。それこそが、真に誇り高き人間の取るべき行動なのかもしれないとアンナは思った。
(わたくしはどうだったかしら?)
散々馬鹿にしてきた、己の過去の婚約者候補達。けれどアンナは、そんな彼等よりも余程馬鹿だったのかもしれない。エヴァレットと一緒に過ごしながら、アンナは少しだけ、そんなことを考えるようになっていた。
「まぁ、そんなに貴重なものなんですの?」
「ええ。プルナ山脈でしか取れない希少価値の高いものだそうです」
ある日エヴァレットは、取り寄せたばかりの宝石の原石をアンナに見せてくれた。こぶし大の大きな原石で、赤と白の綺麗なグラデーションになっている。
「なんだか、宝石にしてしまうのが勿体ないほど、綺麗な石ですわね」
アンナはそう言って瞳を輝かせた。研磨し、形を変える必要が無いほど、その原石は美しく輝いて見える。
けれどエヴァレットは穏やかに目を細め、小さく首を横に振った。いつもアンナの考えを肯定してくれるエヴァレットにしては、珍しい反応だ。アンナはそっと首を傾げた。
「これは、君に贈るために用意した石だから」
エヴァレットはそう口にしたかと思うと、アンナの左手薬指をそっと撫でた。
「へっ?」
らしくない素っ頓狂な声が上がると同時に、アンナの指先はエヴァレットの口元へと運ばれていて。身体中に激震が走り、燃えるように熱くなるのが分かる。アンナにとって生まれて初めての感覚だった。
「完成したら、受け取ってくれる?」
そう口にしたエヴァレットの瞳は、碧く美しく澄んでいる。気づけばアンナはコクリと頷いていた。