※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「じゃぁ、今度は俺から……グラディアにお願いがあるんだけど」


 エーヴァルトはそう言って、グラディアの顔を覗き込んだ。グラディアの両手をエーヴァルトの温かい手のひらがすっぽりと包み込む。

 少しだけ寄った眉間の皺。頬がほんのりと紅く、瞳が潤んでいる。それは己が今浮かべているであろう表情と、よく似ている。グラディアはひっそりと息を呑んだ。

 コツンと音を立てて額が重なる。息が交わる程の近さで、二人の視線が絡む。破裂しそうな程に、グラディアの心臓が早鐘を打っていた。


「俺の――――恋人になってくれませんか?」

「……え?」


 エーヴァルトの声は小刻みに震えていた。たった数文字の言葉なのに、それはグラディアの心を強く打つ。涙がじわりと込み上げてきた。


「俺の、本当の恋人になって欲しい」


 エーヴァルトはそんな風に言葉を重ねる。


「――――遊びじゃなくても……マジになっても、大丈夫ですか?」


 グラディアが身を乗り出し、エーヴァルトを見上げる。涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。


「当たり前だ。寧ろ、そんな気持ちでいられたら俺が困る! 誰だ、そんな馬鹿なこと言ったの」

「エーヴァルト様ですっ」


 エーヴァルトは自身の袖で、グラディアの顔をゴシゴシ拭う。そのままグラディアをすっぽり腕の中に収めると、ポンポンと優しく背を撫でた。

 グラディアの顔のすぐ側で鳴り響くエーヴァルトの心臓は、恐ろしいほどに早鐘を打っていた。それだけで今、彼がどんな気持ちなのかグラディアには分かる。


「それで、返事は?」


 焦れたようにエーヴァルトが尋ねた。百戦錬磨の彼らしくない、意地らしい問い掛けだ。
 グラディアはニコリと微笑み、エーヴァルトの瞳を真っ直ぐに見つめる。


「物凄く……痺れました」


 その瞬間、二人は声を上げて笑いながら、互いを強く抱き締め合うのだった。


(END)
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