※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

16.君は友達(2)

***


 それは、ヴァルカヌスがウェヌスから婚約破棄を言い渡された数日後のことだった。


「ヴァルカヌス様! それにアグライヤ様も! 奇遇ですわね」


 学園の片隅――――いつもアグライヤ達が休み時間を過ごすテラスに、ウェヌスがやって来た。実際は二人きりではないのだが、ウェヌスの目にはそれ以外の人間の姿は映っていないらしい。彼女は満面の笑みを浮かべつつ、滑り込むようにして空いている席に腰掛ける。


「ウェヌス、用件を――――何か話したいことがあるんだろう?」


 ヴァルカヌスが端的にそう尋ねる。
 彼女は何かしら自慢したいことがある時だけヴァルカヌスの元へとやってくる。いつもと全く変わらないウェヌスの様子に、アグライヤは小さく目を見張った。


「ふふっ……分かる? 
実は今度、殿下との婚約をお披露目する式があるから、これからその打ち合わせなの。ドレスや宝石も最高のものを選ばなければならないし、覚えることも沢山あってすっごく大変! 
……だけど、王太子妃になるのだもの。そのぐらい我慢しなくちゃいけないのかしら? アグライヤ様……どう思われます?」


 そう言ってウェヌスはウキウキと声を弾ませる。
 ウェヌスがアレス殿下に乗り換えたことは、既に国中の貴族たちが知るところだ。彼女もそれを前提としてアグライヤに話を振っている。アグライヤは一呼吸おいてから、ウェヌスのことをそっと見上げた。


「そうですね――――わたしは同じ女として、大変羨ましく思います」

「まぁ……! そう……そうよね! アグライヤ様にそんな風に言っていただけるなら、頑張り甲斐もありますわ」


 期待通りの返答が得られたため、ウェヌスはとても嬉しそうだ。けれど、アグライヤは胸が痞えるような心地を味わっていた。


(そんな話、どうして元婚約者であるヴァルカヌスの前でするんだ)


 この場を早く納めるため、アグライヤはウェヌスの望む反応を返した。けれど、本当ならば「ふざけるな」と一言物申してやりたいと思う。


(別にわたしに対して自慢話をするのは構わない。痛くもかゆくもないからな)


 けれど、ヴァルカヌスに対しては別だ。不用意に傷つけるようなことをしてほしくはない。
 しかし、そんなアグライヤの願いとは裏腹に、ウェヌスはとんでもないことを口にした。


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