※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 煌びやかな広間に、多くの貴族が集まっている。


(まさか本当に来ることになるとはな)


 ヴァルカヌスの手を取り、アグライヤは小さくため息を吐く。
 今夜この場所で、アレスとウェヌスの婚約が発表されることになっている。ウェヌスの誘いを断りきることが出来ず、ヴァルカヌスと共に登城することになったのだ。


「本当に良いのか? わたしだけで来ても良かったんだぞ?」


 そう口にしてアグライヤは小さく首を傾げる。
 ヴァルカヌスは元々、夜会や社交が好きなタイプではない。当然必要な時に必要な対応はできるのだが、幾ら招待を受けたからとはいえ、今夜の夜会を欠席したところで彼を責められる人間が何処に居よう。ヴァルカヌスが悲しむ顔を見たくは無いし、アグライヤは彼抜きで出席する覚悟をしていたのだ。


「いや、良い。――――俺の婚約者に変な虫がついたら困るからな」


 そう言ってヴァルカヌスは、アグライヤのことをエスコートする。アグライヤの胸が大きく高鳴った。


「――――らしくないセリフだな。……いや、わたしが知らないだけで、ウェヌス様にはいつもこんな感じだったのか?」


 動揺を誤魔化すために、アグライヤはそう言って笑って見せる。


(広間が薄暗くて助かった)


 そうでなければ、頬が真っ赤だとバレてしまっていただろう。ホッと胸を撫で下ろしつつ、アグライヤはヴァルカヌスのことを覗き見る。

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