※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「ヴァルカヌス様……!」
喧騒を掻き分ける様にして、鈴を転がすようなか細い声が聞こえてくる。二人が振り返ると、ベールを目深にかぶり、瞳を真っ赤に染めた今夜の主役――――ウェヌスがそこに佇んでいた。
「ウェヌス様?」
彼女が人目を忍んでいるのは見ればわかる。小声でそう問い掛けると、ウェヌスは瞳を潤ませつつ、ヴァルカヌスの胸へと飛び込んだ。
「わたくし、アレス様との婚約を取りやめたい! ヴァルカヌス様の元に戻りたいのです」
今にも消え入りそうなか細い声だったが、それはアグライヤの耳にやけにハッキリと届いた。胸がドクンドクンと大きく脈打ち、口いっぱいに苦みが広がる。
「アグライヤ……あちらで少しウェヌスと話をしてくる」
「ああ……分かった」
言いながら、心が張り裂けそうな心地を覚える。本当は行かないで、と引き止めたくて堪らない。
(だけど、ただの友達であるわたしにそんなことを言う資格は無い)
「頑張って来い」とそう言って、アグライヤはそっと踵を返した。
喧騒を掻き分ける様にして、鈴を転がすようなか細い声が聞こえてくる。二人が振り返ると、ベールを目深にかぶり、瞳を真っ赤に染めた今夜の主役――――ウェヌスがそこに佇んでいた。
「ウェヌス様?」
彼女が人目を忍んでいるのは見ればわかる。小声でそう問い掛けると、ウェヌスは瞳を潤ませつつ、ヴァルカヌスの胸へと飛び込んだ。
「わたくし、アレス様との婚約を取りやめたい! ヴァルカヌス様の元に戻りたいのです」
今にも消え入りそうなか細い声だったが、それはアグライヤの耳にやけにハッキリと届いた。胸がドクンドクンと大きく脈打ち、口いっぱいに苦みが広がる。
「アグライヤ……あちらで少しウェヌスと話をしてくる」
「ああ……分かった」
言いながら、心が張り裂けそうな心地を覚える。本当は行かないで、と引き止めたくて堪らない。
(だけど、ただの友達であるわたしにそんなことを言う資格は無い)
「頑張って来い」とそう言って、アグライヤはそっと踵を返した。