※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「――――わたくしも、同じです」


 瞳に涙を滲ませつつ、ルルはアベルに歩み寄る。


「兄様だけ……兄様が居れば、他には何も要らないと思っていました。あんなにカッコいい人は他には居ないって。
だけど……アベル様はこんなわたくしを受け入れてくれました。一緒に悩んだり、苦しんだり、喜んだり、悲しんだり――――そんな風に自分を真っ直ぐに見せてくれるアベル様に、わたくしは心惹かれたのです」


 ルルはそう言って満面の笑みを浮かべる。アベルも目を丸くしつつ、穏やかな笑みを浮かべた。


「ちょっ……ちょっと、待ってくれ!」


 その時、部屋の入り口から慌てふためいた声音が聞こえた。カインだった。顔面蒼白のまま汗をダラダラと搔き、カインは急いでルルの元へと駆け寄る。


「兄様! 一体、どうなさって……」
「ルル! 心惹かれただなんて、そんなまさか……まさかだよな? ルルはこの家を出たりしないだろう? ずっと兄様の側に居るよな、な?」


 カインはルルの腕に縋りつくと、今にも泣きださん勢いで捲し立てる。


「兄様、わたくしは……」

「兄様が! 兄様がずっと側に居てやる! だからおまえは結婚なんてしなくて良い! 結婚して妻が出来ても、兄様はずっとおまえだけのものだ! この家で共に暮らせば良い! なぁ、そうだろう?」


 ルルの中で、何かが大きな音を立てて壊れていく。隙間風が心の中に吹きすさぶような、そんな感覚がした。


「ごめんなさい、兄様」


 ルルはそう言ってアベルのことを抱き締める。断末魔のようなカインの声が邸内に木霊した。



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