※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
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「なんで……! どうしてわたくしは、オーケーしてしまったの? どうしてわたくしは、自分の感情を表に出すことができないの?」

「そんなに泣いたら目が腫れちゃうよ? 程ほどにしておかないと」

「大丈夫よ! わたくしは、エリオットの前じゃないと泣けないから」


 あれから、まっすぐ家に帰ることもできなくて、わたくしは幼馴染のエリオットに泣きついた。いつも完璧な令嬢でいなければならない。悲しくとも人前で涙を流してはいけないって分かっているけど、一人では泣くことも、この感情を昇華することもできない。

 そういう時、わたくしは、エリオットの元に来るようにしている。

 とはいえ、アルバートとの婚約後はそういうことは控えていたので、ここに来るのは実に五年ぶりのことだ。


「クリスは本当は、こんなにも感情豊かなのにね」


 エリオットはわたくしの顔を見つめながら、困ったように笑っている。なんでだろうね、って彼の問いかけに、わたくしは首をブンブン横に振った。


「分からないわ。わたくしだって理由が知りたい」


 幼い頃からわたくしは、感情が欠落した人形のようだと評されていた。嬉しくても口角が上がらない、悲しくてもいつもと同じ表情で、口数も少ないわたくし。父も母も兄も、わたくしのことを扱いづらいと思っているのは間違いなくて。

 そんなわたくしが、唯一感情を表に出せる相手がエリオットだった。

 エリオットは、わたくしがどんなに無表情でも無口でも、構わず話し掛けてくれるし、黙って側にいてくれる。彼と遊んでいたわたくしが、初めて笑顔を浮かべたときには、エリオットも、一緒にいた侍女たちも大層ビックリしていた。


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