※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「それで、クリスはこれからどうしたいの?」

「……どうするって?」

「①このままアルバート様を諦める。②諦めずにアルバート様を取り返す。③一旦アルバート様のことを忘れて、別の何かを考える。どれが良い?」

「――――今更足掻いてももう遅いわ。既に婚約破棄を了承してしまったし」


 そう口にしつつ、わたくしの心は複雑だった。
 アルバートを奪い返せるとは思っていない。けれど、このまま終わらせて良いとも思えない。


「だけど、このままじゃクリスはこの恋を終わらせられないでしょ?」


 エリオットはまるでわたくしの気持ちを読み取ったかのように、そう口にした。ぐしゃぐしゃの表情のまま、わたくしはエリオットを見つめる。


「…………エリオット、手伝ってくれる?」

「ん? 何を手伝えば良い?」

「わたくし、一度で良いからアルバート様に笑いかけてみたい」


 それは、彼がわたくしを見限った理由。きっと、そこに向き合わない限り、わたくしはいつまで経ってもアルバートのことを引き摺ってしまうに違いない。


「彼に想いを伝えてみたい。五年間、ずっとずっと好きだったって、伝えたいの」

「……そっか。そうだね、それは伝えた方が良いと思う」


 エリオットはそう言ってわたくしの頭をポンポンと撫でた。それから、ぐしゃぐしゃになったハンカチを奪い取り、優しく涙を拭ってくれる。心がじんわりと温かくなって、涙がまたにじみ出た。


「じゃあ、まずは練習から始めよう」
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