※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(だけど――――)


 劇が終わったその後にも、現実の物語は続いていく。
 俺の瞳は、先程からネリーンに釘付けだった。

 あれ程までに激しい意見や感情を持ちながら、それを綺麗に隠し通したこと。最後に思い切り毒を放ったその様が、痛快だった。あまりにも美しくて、惚れ惚れする。
 これまでの3年間、ネリーンへの関心は特に無かったけれど、今はとんでもなく興味を引かれているのが分かった。


 すると、俺の視線を感じたのだろうか。ネリーンがこちらを見た。
 知らず心臓が大きく跳ねる。ドキドキと高鳴って息も上手くできない。
 なにを言われるんだろうか。そう思っていたら、ネリーンは静かに微笑んだ。


「……ご機嫌よう、殿下。また、お会いするその日まで」


 ネリーンはそう言って、颯爽とパーティー会場を後にする。
 凛とした後姿。瞳にはネリーンの笑顔が焼き付いている。


(参ったな)


 背筋を駆け巡る甘さ。他では味わえない強い刺激。うずうずと痺れるような快感。
 ネリーンの毒はアロンソだけでなく、俺にも回りきっていたらしい。


(これは……癖になりそうだ)


 頬が熱く火照るのを自覚しながら、俺は盛大に頭を抱えるのだった。


(END)
< 259 / 528 >

この作品をシェア

pagetop