※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 婚約を破棄しようにも、バッカスの方が身分は上だ。彼に婚約破棄の意志がない以上、シンシア達は現状に甘んじることしかできない。


「だけど、今回ばかりは少し心配しています。バッカス様の顔つきがこれまでと違うというか……本気なのかなぁと思いまして」

「あの娘に? ……馬鹿だなぁ、あいつ」


 シンシアとウィリアムは顔を見合わせてため息を吐く。


「バッカス様はわたくしの忠告を聞いてくださいません。ウィリアム様からも一言、あの女性――――ジュノー様について、お話しいただけませんか?」


 今なお楽し気に頬を寄せ合うバッカスと女性に、シンシアは眉を寄せる。正直言って、シンシアにバッカスへの愛情など一ミリもない。嫉妬心を抱くことも無ければ、恨むことも嘆くことも無い。ただ、憐れだと思うぐらいだ。
 けれど、今対処しなければ、後々大変な目に合うのは、彼と結婚するシンシアの方だ。今回ばかりは本気で忠告をせねばならない。


「分かった。だけど、俺が忠告するのはあいつのためじゃない。シンシアのためだ。それだけは覚えておいてほしい」


 ウィリアムはそう言って困ったように笑う。シンシアはコクリと頷きつつ、惚けたような微笑みを浮かべた婚約者をボンヤリと見つめた。


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