※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


「聞いたよ」

「え?」

「イザベラとの一件」


 それは、異母姉さまを焚きつけた翌日のこと。わたしは殿下から、学園内のガゼボに呼び出されていた。


「全く、君と言う人は…………」


 殿下はそう言って、呆れたように眉を顰める。


(碌に知りもしない人間と婚約した男がよく言うわ)


 小さく軋む胸をそのままに、わたしは憮然とした表情で殿下を睨みつけた。


「どうしてその日のうちに、僕に言ってくれなかったんだ?」


 そう言って殿下は、わたしのことを抱き締めた。


「えっ……? ええ?」

「頬だよ。イザベラに打たれたんだろう?」

「えっ……? 頬、ですか?」


 殿下はわたしの頬をまじまじと見つめながら、心配そうに眉根を寄せた。


「傷は……見る限り残っていないようだけど、まだ痛む?」

「いえ。痛みはありませんけど、殿下――――――あの、もっと他に大事なことがある筈では?」


 わたしの殿下への不敬発言は? 性悪女という報告は一体どこへ消えてしまったのだろう。

 けれど、殿下はキョトンと目を丸くしたかと思うと、すぐに柔らかく微笑んだ。


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