※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「僕には、ローラ以外に大事なことなんて存在しないよ」


 その瞬間、心臓がドクンと変な音を立てて疼いた。
 当然だろう?とでも言いたげな眼差しが、力強い腕が、わたしを優しく包み込んでくれる。


(何なのよ……ホント、馬鹿じゃないの?)


 そう思うのに、その馬鹿さ加減に惹かれつつある自分に嫌でも気づいてしまう。


「わたし、殿下のことを貶したのですよ?」

「うん、だから?」

「だから? だから、って…………」

「言っただろう? 僕にとってはローラの方が大事だ。だから、不敬だとかそういうことは思わないよ」

「だけどわたし――――――異母姉さまに対して、相当酷いことも言いました」

「だとして、自分に都合の悪いことなら申告する必要ないだろう?」


 そう言って殿下は、わたしのことを幼子をあやすみたいに撫でている。


(酷い。そんな風に言われたら、もう何も言えないじゃない)


 殿下は悪女の側面を知ってなお、それを受け入れると言ってくれている。わたしのことを大事に思うと言ってくれたのだ。


(わたし、どうやったらこの人と婚約破棄できるんだろう?)


 ハッキリと見えていた道筋に、暗雲が立ち込めた心地がした。


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