※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
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 とはいえ、わたしは諦めなかった。
 悪女作戦はその後もずっと継続したし、色仕掛け作戦なんかも決行した。
 もっとも、殿下には放っておいても定期的に令嬢方が押し寄せるので、こちらの方は普通にやっても意味がない。


(浮気な方は嫌! とハッキリ言えるだけの状況を作らないと)


 そう考えた時に、変えねばならないのは特攻する方の女性じゃなく、殿下自身だと考え至った。どんなに魅惑的な女性が迫ろうと、情に訴えかけようと、殿下は首を縦に振らない。自分にはローラがいるから、の一点張りだ。
 ならばこちらは、殿下がほんの少しだけ、理性を手放す手助けをすれば良い。

 そんなわけで、裏ルートを駆使し、わたしは媚薬を入手した。


(異母姉さまが殿下と上手くいきますように)


 そんな願いを込めて、わたしは殿下に媚薬入りの紅茶を飲ませる。遅効性って話だから、わたしが居なくなってすぐに異母姉さまを送り込めば、殿下は異母姉さまの虜。既成事実かそれに近しい状況が出来上がっている手筈だった。

 だけど、期待を込めて戻って来てみれば、殿下は飄々とした表情で異母姉さまの誘惑を躱していた。
 もちろん、異母姉さまにわたしの計画を打ち明けたわけじゃない。ボディタッチとか、もっと積極的なアプローチをすれば、結果は変わっていたのかもしれない。


「ローラ! 待っていたよ! 一体何処に行っていたんだ?」


 けれどその瞬間、わたしはハッキリと敗北を悟った。殿下はわたしのことをギュッと力強く抱き締め、嬉しそうにスリスリと頬擦りをする。頬にチュッて湿った感触が走って、わたしは大きく目を見開く。


「でっ……でん…………!」


 気づいたら、異母姉さまがその場から駆け出していた。


(こんな筈じゃなかったのに)


 やることなすこと、全てが裏目に出てしまう。最近のわたしは異母姉さまを傷つけてばかりだ。そもそも存在自体が、気に喰わないだろうに、これでは本当に最悪の悪女じゃないか。


(もう異母姉さまを巻き込むのは止めよう)


 未だ止まない口付けに心臓を高鳴らせつつ、その日わたしはそう誓った。


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