※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


(やっちゃったなぁ)


 満天の夜空を見上げながら、キーテは大きくため息を吐く。
 ここ数日は、自分でもビックリするぐらいに体調が良かった。それなのに、お茶会が始まって数分後、突如具合が悪くなってしまった。


『わたくしが誘ったのだもの。キーテは気にしちゃダメよ?』


 デルミーラはそう言ってくれたが、不甲斐ないと思うのは致し方なかろう。

 実際、招待された令嬢方からは、

『大変ですわね、デルミーラ様』
『こんなに献身的に看病なさるなんてさすがだわ』
『お気の毒に』

 といった声が上がっていた。
 事前に予兆でもあれば対処のしようもあるだろうが、突然襲い掛かる不調は如何ともしがたい。


(もっと強くなりたい)


 唇を噛み、天を仰ぐ。目頭がとても熱かった。


「キーテ」


 突然の呼びかけにハッとして前を向けば、エルベアトの笑顔が飛び込んで来た。


「エルベアト様!? 一体、どうして?」

「ん? キーテとデートがしたいなぁと思って」


 来ちゃった――――そう言ってエルベアトは、キーテに向かって手を差し伸べる。背中には何やら、白い布で包まれた状態の大きな荷物を背負っていた。


「だけど私、お昼に体調を崩したばかりですもの。エルベアト様に迷惑を掛けてしまうんじゃ……」

「平気だよ。俺は医療を多少かじっているし、具合が悪くなってもきちんと看病する。迷惑だなんて思う必要ない。だから、行こう」


 力強い言葉。数秒躊躇った後、キーテは大きく頷く。
 手を取れば、まるで羽が生えたかの如く、足が宙へと浮かび上がった。空高く昇ってしまえば、視界を遮るものはもう何もない。


「うわぁっ……!」


 星空の中を二人きりで泳ぐ。地上に広がる灯りがまるで、星のように輝いて見えた。雲を搔き分け、風に乗り、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと『空を飛んでいる』という実感が湧く。けれど、不思議と怖くはなかった。
 ふとエルベアトを見れば、彼は満足そうに微笑んでいる。キーテは胸を高鳴らせつつ、声を上げて笑った。



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