※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***
(そんな……)
悲しいことにノエミの予想は当たっていた。
領地で暮らす父親から送られてきた手紙を読みつつ、ノエミは眉間に皺を寄せる。
(わたしに縁談が来るなんて)
何度読み返してみても、書かれている内容に誤りはない。
手紙によればこの日、ノエミの家に、とある実業家からの遣いが訪れた。王都でもやり手だと噂になっている、ステファヌ・ホックリーだ。使者はステファヌからの求婚の手紙と一緒に、多額の金銭を持参していた。
(爵位目当ての求婚……か)
商売で成功した人間が、金の次に欲するものが身分だ。財政難に陥っている貴族に目を付け、結婚を持ち掛けることで爵位を得る。箔が付くし、上流階級とのパイプを手に入れられるので、商人側にも、困窮している貴族側にも、双方にとってメリットのある契約だ。
(こんな機会、またとないわ)
持参金もままならないノエミに、貴族からの求婚はあまり期待できない。結婚によって得られるものが殆どないからだ。
(――――ジュールはどう思うだろう)
父親からの手紙を胸に抱きつつ、ノエミは唇を引き結ぶ。
ジュールはあくまで恋人だ。婚約者ではない。ステファヌとの婚約が成立すれば、二人には別れる以外の道はない。
かといって、ジュールがノエミと婚約することも無いだろう。互いに想い合うことと、結婚とは別の問題だ。家柄も金も、当事者以外の要素が大きく絡んでいる。
(ジュールだって、わたしと結婚できるとは思っていないはずだもの)
二人が結ばれることは無い――――そんなこと、ノエミ自身が一番よく分かっていた。
(そんな……)
悲しいことにノエミの予想は当たっていた。
領地で暮らす父親から送られてきた手紙を読みつつ、ノエミは眉間に皺を寄せる。
(わたしに縁談が来るなんて)
何度読み返してみても、書かれている内容に誤りはない。
手紙によればこの日、ノエミの家に、とある実業家からの遣いが訪れた。王都でもやり手だと噂になっている、ステファヌ・ホックリーだ。使者はステファヌからの求婚の手紙と一緒に、多額の金銭を持参していた。
(爵位目当ての求婚……か)
商売で成功した人間が、金の次に欲するものが身分だ。財政難に陥っている貴族に目を付け、結婚を持ち掛けることで爵位を得る。箔が付くし、上流階級とのパイプを手に入れられるので、商人側にも、困窮している貴族側にも、双方にとってメリットのある契約だ。
(こんな機会、またとないわ)
持参金もままならないノエミに、貴族からの求婚はあまり期待できない。結婚によって得られるものが殆どないからだ。
(――――ジュールはどう思うだろう)
父親からの手紙を胸に抱きつつ、ノエミは唇を引き結ぶ。
ジュールはあくまで恋人だ。婚約者ではない。ステファヌとの婚約が成立すれば、二人には別れる以外の道はない。
かといって、ジュールがノエミと婚約することも無いだろう。互いに想い合うことと、結婚とは別の問題だ。家柄も金も、当事者以外の要素が大きく絡んでいる。
(ジュールだって、わたしと結婚できるとは思っていないはずだもの)
二人が結ばれることは無い――――そんなこと、ノエミ自身が一番よく分かっていた。