※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「ねぇ――――もしも相手が納得してくれなかったら、どうするつもりだったの?」


 ふと、不機嫌そうな声音が響き、ノエミはハッと顔を上げる。見ればジュールがノエミを見つめながら、ほんのりと唇を尖らせていた。


「どうって……わたしにはジュールがいるもの。ジュールとけっ……結婚したいからって、キッパリとお断りするつもりだったわよ」


 そう言ってノエミは、ジュールの手のひらをそっと握る。薬指には、ジュールから贈られた指輪がキラキラと光り輝いていた。

 これまでのノエミならば、己の想いを押し殺し、ステファヌの申し出を受け入れていたに違いない。けれど、ノエミは今やジュールの正式な婚約者だ。誰に遠慮する必要もないし、『ジュール以外は嫌だ』と堂々と口にすることが出来る。


「恋人って響きも良かったけど、婚約者って……やっぱり良いね」


 二人は互いを見つめながら、どちらともなく目を細める。
 ただ将来を約束しただけ。たったそれだけの違いだというのに、驚くほど気持ちが違っている。


「ねぇ、そっちに行っても良い?」


 ノエミの手を握り返しながら、ジュールが尋ねる。指を絡めつつ、愛し気に目を細めたジュールに、ノエミは困ったように笑う。


「良いけど……どうして?」


 ノエミはもう、尋ねることを躊躇わない。ジュールとの未来や、愛情、彼の全てを望んでも良い――――そう知っているからだ。


「全力で『ノエミが好きだ』って伝えたいから」


 ジュールの言葉に二人は顔を見合わせる。それから、どちらともなく小さく吹き出すと、そのまま互いをギュッと力強く抱きあうのだった。


(END)
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