※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 彼が声を掛けたくなるのはどんな女性だろう。慎まし気な女性だろうか。それとも愛らしい女性だろうか。
 周囲がブルネットばかりのため、オルニアは髪を金色に変える。瞳も目の覚めるような緑色をチョイスした。まずは目に留まらなければ意味がない。一度で上手く良くとも限らないが――――


「君、大丈夫かい?」

(釣れた)


 こんなにも簡単に。
 口元を押さえ、オルニアは瞳を震わせる。


「平気です。少々……調子が悪いだけで」

「それはいけない。すぐに治療を受けた方が良い」


 クリスチャンは真剣だった。本気でオルニアのことを心配している。あまりの人の好さに、オルニアはため息を漏らした。


「受けたいのは山々ですが――――天蓋孤独の身で仕事もないわたくしに、治療なんて大それたものは……」

「ならば城に連れて行こう。こういう時、民が無償で治療を受けられるようにしてある」


 オルニアは決して嘘は言っていない。不調は気の持ちよう。両親は居らず、次の仕事は決まっていない。金子はたんまりと持っているが、言う必要のないことだ。
 クリスチャンは自らオルニアを抱き上げる。どうやら掴みは上々らしい。そのまま縋る様にして、城へと連れて行かれた。



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