※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「何よ、これ……」


 辺りは血に塗れ、とても悲惨な状況だった。鉄の臭い。呻き声や泣き叫ぶ声。
 オルニア達の警護で王都に降りていた騎士達が応急処置に回っているが、完全に人手が足りていない。城から応援を呼ぼうにも、かなりの時間を要するだろう。

 オルニアに付いていた騎士が、青褪めた表情で走り出す。誰にも手当てを受けていない負傷者の側にしゃがみ込むと、泣き出しそうな表情で止血を始めた。


(どうしよう)


 足が震える。手足が冷たい。心臓がバクバクと早鐘を打つ。
 このままでは、多くの人が命を落とすだろう。例え応援が来たとしても、医療では助けられない者もいる。


(逃げようと思っていたのに)


 誰が苦しもうと、悲しもうと、オルニアには関係ない。
 けれど、血の気を失った人々が、絶望に歪んだ騎士達の表情が、クリスチャンの叫び声が、オルニアをこの場に縫い付ける。


(あぁ……もう!)

「退いて!」


 止血中の騎士を押しのけ、オルニアはその場にしゃがみ込む。ドクドクと噴き出す血液。大きく息を吸い、手をかざす。


「オルニア様、一体何を!」
「黙ってて!」


 その瞬間、眩い光がオルニアの手のひらから降り注ぐ。それは傷口を覆う様にして広がり、やがて弾けた。しばしの沈黙。それから、皆が驚きに目を見開いた。


「奇跡だ……」


 血が止まっている。痛みもないのか、先程までぐったりしていた男性は、オルニアを呆然と見遣った。


「オルニア様、あなたは――――」

「何をボサッとしているの」


 オルニアが立ち上がる。騎士はハッとしたように居住まいを正した。


「騎士を集めて! 早くわたしを重傷者の元に案内なさい! それから、負傷者を出来るだけ一ヶ所に集めて!」
「はい!」


 騎士が勢いよく走り出す。再び大きく息を吸い、オルニアは真っ直ぐ前を向いた。


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