※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「わたくしは――――――本当は逃げ出そうと思っていたのですよ」


 能力を持ちつつ、それを隠そうとした。知らんふりをしようとした。クリスチャンがこんな風に涙を流す価値はない。言外にそう伝えても、クリスチャンは大きく首を振る。


「それでも君は逃げなかった。多くの人を助けた。それだけが真実だ」


 目頭が熱い。もう何年も、仕事以外で流すことのなかった涙だ。
 クリスチャンの服をビショビショに濡らし、オルニアは静かに泣いた。



「君を我が国の聖女として、正式に迎え入れたいと思っている」


 国王の言葉に顔を上げる。半ば予想していたセリフだ。
 エディーレン王国の出身者ならば、問答無用で聖女にされていただろう。けれど幸いオルニアは異国人だ。小さく首を横に振る。


「そんな、聖女だなんて……わたくしはそんな大層な存在ではございません。少し魔法の使える程度の、ただの小娘ですから」


 これと全く同じ言葉を、オルニアはとある人物から言われている。決して謙遜しているつもりはない。心からの想いだった。


「何を言ってるんだ、オルニア。君の力は素晴らしい! 俺達は本当に、心から感謝しているんだ。どうかこのまま城に留まり、一緒に国を支えて欲しい! 頼むよ」


 クリスチャンが手を握る。オルニアの心が震えた。
 オルニアはきっと、こんな風に言って貰える日が来るのを、ずっとずっと待っていた。傷つき、立ち上がれなくなった三年前のあの日から、ずっと、ずっと。


「答えはすぐでなくて良い。城内でゆっくりと静養してくれ」


 国王の言葉に、オルニアは小さく頷いた。


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