※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「ちょ、ちょっと待って下さい……!」


 直接的な言葉を吐かれてしまっては、どうすることも出来なくなる。相手は腐っても王子。本気で請われて断れるはずがない。
 これまで、危ういバランスで保っていた絶妙な駆け引き。引き際を見誤ったことに気づき、オルニアは小さく首を振る。


「待たん。元より逃がす気もない」


 そう言ってクリスチャンはニコリと微笑む。恭しく手を握られ、口付けを落とされ、それから愛し気に見上げられる。


「オルニア、俺と共に生きよう」


 ゆっくりと紡がれた言葉は、とても重い。オルニアの瞳に涙が浮かび上がった。


「俺と結婚してほしい」


 心が震える。
 これまで数多の男たちに、「好き」だとか「愛している」と言われてきた。「君のために婚約を破棄する」と言わせてきた。それがオルニアの仕事だった。
 けれど、どれだけ愛を囁かれても、オルニアの心が揺らぐことは無かった。


「わたしは――――殿下と結婚できるような女じゃありません」


 暗い靄が掛かる。胸が張り裂けそうに痛かった。


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