※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 会場はいつになく、華やかで温かな空気に包まれていた。仕事で幾度となく夜会に参じたオルニアも、これには驚きを禁じ得ない。


「聖女様!」

「聖女、オルニア様!」


 温かな賛辞。これまでずっと日陰を歩いてきたオルニアにとって、あまりにも照れくさく、それから嬉しい。
 前を歩くクリスチャンと、僅かに視線を交わす。彼は、まるで自分のことのように嬉しそうな表情をしていた。


 たくさんの貴族達が次から次へと挨拶に訪れる。その中には、セリーナと彼女の元婚約者も含まれていた。


「オルニアって本当に化けるのね! あいつ、あなたがゼパルだってちっとも気づいてないわよ」


 事前に手紙を貰っていなかったら、セリーナすらオルニアに気づかなかっただろう――――二人は穏やかに微笑み合う。また会うことを約束をして、セリーナは静かに去っていった。



「オルニア、すまない。少し席を外すが」

「構いませんわ」


 一頻り挨拶を済ませた頃、騎士達に呼ばれたクリスチャンを送り出す。心の中で一息吐いた、その時だった。


「おまえ、ラファエラだろう?」


 オルニアの身体が凍り付く。


「やっぱりそうだ。久しぶりだな」

「…………殿、下?」


 不敵でどこか陰鬱な笑み。ニブルヘラ王国の第一王子、アダムだ。


「お前、我が国を出てから、こんな辺鄙な所に居たんだな。しかも、寄りにもよってまた聖女。自己顕示欲の強い女。余程王子様が大好きと見える」


 オルニアは出身国である、ニブルヘラ王国の聖女だった。今の彼女の出で立ちは、最後に国を出た時とよく似ている。このため、アダムにバレてしまったのだ。


「そんな……そんなこと無いわ」

「あるだろう? 俺から婚約を破棄された癖に、今度はエディーレン王国の第三王子! 昔から聖女、聖女と持て囃されていたが、とんでもない。本当にふてぶてしい悪女だな。俺のおさがりを掴まされたクリスチャン殿下には心から同情するよ」


 耳元で囁くようにして、アダムは言う。
 彼から婚約を破棄され、国を追われたからこそ、オルニアはあんな仕事をしていた。己を救いようのない悪女だと断じ、男達へ意趣返しのようなことをしていたのである。


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